第16話 あれから37年
1、3年間の養育後、めぐみはスカーニーと衣子に返還される
2、同時にスカーニーと衣子の結婚を発表する
3、それに伴い衣子の雇用契約を亜種白路と解消する
4、養育費は養父母にのみ受給され、あらゆる組織や家族には渡されない
5、三閉免疫症候群は3年後、その組織名を三開自己免疫炎とし職務範囲を拡大し、Mjustice-Law家の秘書としての任務が与えられる。
6、そのための移行期間として三閉免疫不全法を施行する
1985年12月9日、亜種白路、朱雀雪芸、亜露村、それから三閉免疫症候群の当時の央観家当主である山蘇野正宗の間でこのような契約が交わされた。
亜種白路は調印式を世界同時中継し自分達の立場を見せつけた。
1986年めぐみが無事に誕生した。それからほどなくして、ある噂が朱雀雪芸のもとに届けられた。
「アメリカが怒っているようなんです」
どういうことだろう。調印式は中継されていたから納得しているんじゃないだろうか。
「とにかく明日のスペースシャトルの打ち上げを見てくださいとのことです」
朱雀雪芸は浴衣に羽織を羽織って邸宅の南向きの部屋でテレビをつけた。この部屋はいずれ孫が帰ってきた時に使ってもらえるよう、少しずつさまざまなものを揃えようと思っている。広さは約12畳、広すぎると子ども時分は寂しさを感じやすい。このくらいの広さが適当だと経験から推測していた。
「打ち上げ失敗です!打ち上げが失敗しました!!」
宙空で破裂するスペースシャトルを見て雪芸は混乱した。どういうことなんだ?スペースシャトルが破裂した?
日を追うごとに続々とニュースが飛び込んでくる。乗組員全員死亡。
孫を案じてすぐさま亜露村に向かった。孫は生きていた。息子の嫁も息子も無事が確認できた。
「雪芸、亜種白路と契約を交わしたって本当か?」
昔馴染みの親友は不機嫌だった。事情を教えてほしいと言えばいつも朗らかに冗談を言いながら丁寧に事細かに教えてくれる親友の語調が明らかにおかしい。
「ああ、彼らが3年間だけ孫を面倒見てくれるところを見つけてきてくれたんだ」
「ありえない」
アメリカ人の友人はそう言うと一方的に電話を切ってしまった。イギリスの友人に電話すると言葉少なに「息子に寄り添ってやることが今君ができる精一杯のことだと思う」とこれまた電話を一方的に切られてしまった。
インターネットの発達や通信技術の改革は日進月歩の発展を見せた。日本だけ取り残されてしまったことに雪芸は3年後ようやく全容をつかめた。
騙されたことを悟ったのだ。
それ以来アメリカやイギリスは雪芸抜きでめぐみの救出作戦を試みた。しかしなかなかうまくいかなかったのは、日本語という特有言語と英語が堪能な日本人は亜種白路所属者が圧倒的に多いという最大の双璧があったからだった。
35年後、イギリスとアメリカはめぐみを発見した。最初の出会いに歓喜した。あれは2021年のウインブルドンだった。
戦いはこうして表沙汰になった。
スカーニーと世界が和解したのは2023年6月、そして2023年9月いよいよ朱雀雪芸と世界が和解する。
めぐみはかすがいだった。大きな虹の橋に成長してくれた。
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