第14話 時空支配者の涙

8月25日、時空旅人の取り扱いに一定の規則が定められた。

群青、Kyle、エリザベスがモデルケースを申し出てくれたおかげで、すでに臨床実験も成功したと公表することができた。

「サドカイサイクルは必ず亜種白路に利用されることになるだろうから、FROzenの協力が不可欠になる。もともとは時空旅人も分別主義を採用している。規則をはっきりさせるためにも、まずモデルケースを作る必要がある。同時にFROzenがどのような立場であるかも表明しなければならないだろう」


BRONZE-FROzenは被害者組織として再編されたわけだが、その冠に新しい意味ではなくBRONZEを招待することで立場を表明した。

11団体の主な役割は、サドカイサイクルに逃げ込もうとした亜種白路の再利用不可処分だ。

「でも、これはただ再利用不可って言ったら俺たちの債権ゼロになっちゃうじゃん」


金融連邦の会議はゆるい。まだすべてのメンバーが島に集結できていないことから時差の関係で夜中になることもあるからパジャマで参加していたりするものも多い。

「再利用不可は帝冠任務や戸籍としてだよ。法律外にするって意味」

めぐみのゆるさは日に日に増していく。クマのぬいぐるみを撫でながら会議に臨むところはさすが、お嬢さんだと思う。自覚と責任がともなえば伴うほど、態度が自然体になっていく。

「じゃあどうするの?埋め立てるってこと?」

ヴァージニアはアマンダへのお見舞いのお料理を検索しながらだということがよくわかる目の動きをしながら言った。あきらかに別の画面で何かを調べている。

「埋め立てたら債権ゼロになっちゃうじゃん」

ヴァージニアの隣の部屋にいると思われるジョセフ。たぶん喧嘩をしたのだろう。語気が強い。

「おお、群青、いらっしゃい!」

「今はスチュワートですよ」

「癖でね。時空旅人から見事復活した、スチュワートくんです」

めぐみの目が泳いでいる。一度会った人にはじめましてと言えない馬鹿正直が露呈して、それぞれが笑いを堪えている。

「どう?新しい足?新しい身体、とか、色々」

ヴィクトーの話し方がよそよそしい。めぐみはその理由がわかる

(ヴィクトーもあたしと同じ法律言語を使う人。理科や算数言語を使う人ってちょっと怖いよね)

めぐみの口角が上がる。

「悪くはないよ。でも何て言うか、名残がね、亜種白路とすれ違うだけで死後硬直みたいになっちゃうっていうか」

「ああ、わかる。俺もそれよくある。なんていうか、肌で感じるんだよね」

「そうそう、アレルギーだと思う」

「臨床実験もう一度やらなきゃじゃん」

めぐみが冗談を言った時に全員が沈黙するのはいつものことだ。面白くないんじゃなくて視点が尋常ではなく驚かされるから沈黙する。正しい反応であることをめぐみは理解しているから、その沈黙を受け入れることができる。

「あー、そうしようか」

監永が捜永に目配せをする。ふたりは元老院のオフィスから参加していた。

「臨床実験として使えば債権回収ができる」

「BRONZE-FROzenにすぐに連絡してくれる?」

遅れて参加した、スカーニーが二つ返事で了承した。やっぱりスカーニーはタイミングが絶妙だ。


「週明けからできそう?」

BRONZE-FROzenたちはサムズアップして答えてくれた。11団体は人種・宗教・文化・慣習あらゆることが多様だ。それがここまでまとまること自体が奇跡だとスカーニーは喜んで、ひっそりと涙を流した。


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