第12話 輪廻停止措置決定
時空旅人の中に花鈴という人がいる。
すでに受刑の輪廻は停止が決定されているからあと幾許も無い命であるが、先日その人に私は初めて面会することが許された。
「最後だから」とスカーニーが許可をくれた。
もちろん危険であることは変わらないから、監永と捜永が同伴してくれた。
「はじめまして」
花鈴はおばあさんのようで少女のようなアンバランスな人だった。悪い意味で年齢不詳、若さに囚われたかわいそうな人だという印象だった。
「ごきげんよう、あたくし花鈴と申します。あなたのお名前は?」
「あ、すみません、恵です」
顔色が変わった。
「ファミリーネームは?」
「え?」
「ファミリーネーム!あたくしはちょっと事情があってお伝えできないけれど、でもね、あなた目上の人に会う時にファミリーネームを言わないっていうのはどういうお育ちをしているのかしらね?」
どうしたものかと思った。
伊織恵です、と普段なら躊躇なく名乗るだろう。でもこの人が求めているファミリーネームはもっと別のものだと察しがついたし、その求めているファミリーネームを名乗らないとせっかくスカーニーが許可してくれたことが無駄になる。
どうしたものかと悩んだ末、別にもう終わりだからいいやと「伊織恵です」と名乗った。
「伊織さんっていうのね、あたしの孫息子も伊織っていう苗字なのよ」
知ってる。その孫息子を9日の夜に銃殺するよう命令したのはあたしだったんだもの。伊織慶輝。特例措置は6月以来の発令だった。
「そうですか」
何を話していいか迷ってしまう。
「今何時かしら?」
「もうすぐ10時です」
「あらあら大変。定例事務総会の時間だわ。秘書を呼ばなきゃ」
ここは刑務所だ。刑務官はいても秘書はいない。
「認知症かな?」
後ろで捜永と監永がクスクス笑う。
「あの、失礼ですけど、お生まれはどちらですか?」
花鈴の顔色が変わった。
「京都よ。東京なわけないじゃないの、もちろん満州とかそんなところでもないわ。広いお庭にばあやが三人いて、蝶よ花よと育てられたの。お茶もお花もなんでもできてよ。フランスのソルボンヌ大学にも留学したわ。お父様のすすめでね。でも仕事上そう言うことはできないから、あなたがあたくしの情報を知ることができても、ソルボンヌ大学までは到達できないわよ」
監永がたまらず吹き出して、あたしの左頬に監永の唾が付着した。
「きたねえなあ」
いつもの癖でそう言うと、監永は両手を合わせてにやついて謝った。
「あなたこそ!!あなたことそんな汚い言葉を使って!!それでMjustice-Law家の令嬢だなんて笑わせないでよ!!翠蘭だってそうよ!!あんな女!なんで、なんで!!!!」
スカーニーがあたしと彼女を最後に面会させた意味がわかった。
「ただいま」
「おかえり。どうだった?」
少なからず心配はしてくれていたらしい。もちろん翠蘭さんはその場にはいなかった。スカーニーなりの配慮だ。
「なんか、劇場でお笑いライブ見てる気分だった。ごめん、疲れたからもう寝る。今日は放っておいて」
疲れ果てて自室に戻ると、昨日買った切花が目に止まった。
「あたしなんでこんなもの金出して買ったんだろ」
虚しさに苛まれて接触障害が悪化した。そんなこと絶対に言えない。同情したなんて口が裂けても言うべきじゃない。
「スカーニー、あ、お父さん。あたしなんだか接触障害が悪化した気がする。一介さんのこともあってちょっと疲れた。花鈴のことは関係ない」
父はBillに連絡して緊急受診をすることになった。
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