第6話 特区解放
アマンダとアンドリューとアレックスとロイドゼラと。
元老院なしで話をすることには戸惑いがあった。
「ねえ、アマンダほんとうにいいの?」
ロイドゼラは当時の恋人を射殺されている。元老院の指示で恋人が射殺されたあと、自分は服毒自殺に見せかけられて時空旅人に追いやられた経験からか、声も体も小刻みに震えていた。
「ええ、エリザベスも来ればよかったわね。彼女がきたらあなたは信じたでしょう?」
ロイドゼラは躊躇いながら「ええ」と答えた。エリザベスと自分が白人であることは関係ないけれどと付け加えることがどうしても道徳的に許せなくて、自分の身を罪に引き渡すことにした。道徳観や善意的に見られたいことは時として虚栄心である。教会学校での強烈な思い出が時空旅人になってもなお、ロイドゼラを苦しめている。
「ロイドゼラ、大丈夫よ、私はあなたの優しさをわかっているから」
アンドリューがため息をついて、本題に入る仕切りをした。
「フロリダのことなんだろう?あそこは話が通じないから俺たちは賛成できない。というよりも意味がないよ」
アンドリューはミシガン州の人間だ。デトロイトの危険な貧民街で見てきた右に倣えの姿勢は彼に元老院に対する不信感を与えたことは言うまでもなかった。
「フロリダのことだけれど、フロリダに従えということではないのよ、今回は」
「じゃあ、テネシー州みたいに必ず逆をいけってこと?それはそれでフロリダに従っているようで俺は意味がないと思う」
アレックスはオレゴン州で生まれた。正確に捉えるからこそ有意義と無意味に関してはとてもシビアだった。
「週明け、経済特区の撤廃が発表される」
「どこの州!?!?さすがにまだアメリカ全土ってわけじゃないわよね?」
ロイドゼラが食いついた。かつての恋人が成し遂げたかったアメリカンドリームがまさか後継者であるアマンダから、しかも元老院のお墨付きを持って聞けるなんて想像もしなかったのだ。
「違うわ。世界中よ」
アレックスとアンドリューは顔を見合わせた。信じられないという表情で言葉にならない感動を共有しあっていることがよくわかったアマンダは話を続けた。
「元老院が刷新されたことは知っているわよね。実は元老院の鍵が、ワシントンやテキサスではなく、そしてフロリダでもなく、オレゴン州やテネシー州、ミシガン州を起源としていることがわかったの」
「どういうこと?」
「元老院がその身を隠すために利用していたのは貧民街だったの」
「ありえないよ。じゃあどうして、この40年近くも俺たちはフロリダに振り回されていたんだよ。フロリダが発信源だと言われ続けてこの国はもう滅びかけたっていうのに」
「簡単な話よ。フロリダにいた秘書たちがなりすましていたってこと」
アレックスはオレゴン州らしくこう突き立てた。
「なぜ本物が黙っていたんだ?自分達の権利を成りすまされていたなんて、、、規模が違うんだぞ、アマンダ」
「アレックス、思い出して。チャレンジャー号の失敗を。ロケットの打ち上げにはどれほどのお金がかかっていたと思う?」
「、、、親は何もかもを捨てても娘を取り戻そうとしたのね」
ロイドゼラにも覚えがあった。恋人が見つけた何かを彼が彼のすべてを捧げて守ろうとしたことを。それは時空旅人にならざるをえなかった自分の起源であるけれど、時を経て誇らしく感じられるほどまた地球に接近していた時代の流れを、彼女は今ようやく捉えることができた気がした。
「冷静に考えろよ、元老院にとってロケットの打ち上げなんて当時から端金だ」
アンドリューが笑いながらアレックスの肩を抱く。
「あたしたちについに自由が来るわよ」
チャレンジャー号は失敗すべきだった。そう結論づけられたことを恋人は何ていうだろう。もしも時空旅人になっていたらどこかでまた会えるかもしれない。
ロイドゼラに時空旅人としての希望が生まれた。
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