第5話 三閉免疫症候群の隔離政策
亜路村の地図は込み入っている。道が複雑でどこからでも辿り着ける場所が多過ぎて一番難解な時空を展開している。
西も東もないちょうど真ん中にある亜路村は地理的利便性もあり多くの移民が新天地として利用していた。
利便性がよく人気があるからその土地の名前はあえて公にはならない。
有名な観光地、例えば箱根とか、例えば熱海とか、例えば札幌とか、例えば宮古島とか。亜路村の隠語として彼らはよく使っていた。
入植ルートも奇怪で童子の奉献者のみが与えられるとか、租界チケットを手に入れたものだけが地図を渡されるとか噂は色々あった。
天村君子は亜路村へのチケット数を調整する役職にもう20年近く就いている。これは事実ルール違反だ。法律でも亜路村チケット数の調整役の人気は2期8年、大統領制と同じと定められている。
ロベルトもスカーニーもバロウも天村君子についてはいつも懐疑的だった。
彼女はある年、多胡芳実と結婚して栗生暁子を産んだ。栗生という苗字は天村君子の当時の苗字だ。彼女は未亡人だったためそのまま利用していたのだ。多胡芳実なら三閉免疫症候群として同じ病院に通院していたことから腹を割って話せる、そう思ったスカーニーとバロウは彼に接触を試みた。
2010年のことだった。
同年DNA鎖の蛇システムの解明に進展があったと報道された。
翌年、多胡芳実と天村君子は離婚した。ふたりの離婚に対する見せしめのように三閉免疫症候群は症候群は誰もおらず一律にして不全であると基準が格上げされ完全隔離が法整備された。
2011年の大地震でスカーニーとバロウは殺されかけた。
「これはどう考えても正良さんだろう。多胡ができることじゃない」
バロウは被災した車のなかでスカーニーに語りかけた。
「そうだけど、でもロベルトがいる以上そんなことはしないだろう」
スカーニーと正良の不仲は公然の秘密として有名だった。
数年前、衣子と多胡開望と正良の写真が週刊誌に掲載されたことをスカーニーはいまだに許すことができないでいた。
午前5時夜明けが近いとわかっていても恐怖は津波として押し寄せてくる。
ーーー亜路村の入植チケット調整は巨大な利権が絡む大きな役職だ。恵が亜路村で人質として預けられていたことも、、あの時の調整役は誰だっただろうか、、、
幾度も余震に見舞われ感覚が麻痺していくと、時空旅人が俺をどこかに連れて行ってくれるような気がした。余震がくれば目を閉じた。そうやって細切れになりながらも時空を渡り歩いてようやくあの時の調整役にたどり着くことができた。
一週間後、俺とスカーニーはようやく帰京した。
そして俺はスカーニーに伝えた。
「トムソンと永久子が二分していた役目を天村君子は今ひとりでやってる。亜路村へのチケットはすべてあいつが握ってる」
スカーレットもカナリヤも騙されている。排水溝の詰まりの原因、それはルートがひとつしかないからだ。それを誰も知らないでいる。
でも正良はどうなんだ?
あれから10年。恵と再会して2年。
亜路村の恵の養父・正宗さんが亡くなった。
葬式に行って俺は驚いた。参列者全員が帝冠保持者だったからだ。
亜路村は何かが変わってしまった。軍記は新しい注意書きが必要になっている。
その注意書きはどうして加えられないのか。
ああ、なるほど、排水溝がひとつしかないからだ。
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