第2話 原点からはじめようか

「虫が前に進んだりうねったり下がったりしてる」

涙の中に浮かぶ虫は3センチの範囲を進んでうねって下がっている。

「気のせいじゃないの?」

そんなのわかってる。

「女の人がね、あたしを褒めるの。馬鹿みたいにすごいすごいってすごくムカつく」

月のものが来ると女も一緒にやってくる。お母さんが教えてくれなかったことを私は恨んでいる。

「めぐ、隣の家に今女の人はいないよ」

そんなのわからないじゃない。。。


東西に別れる前を知らないあたしはいつもそんな意味不明の文句を言い続けていた。

家族は見守るように突き放すようにあたしの要求をすべて聞いてくれている。


人質村の亜路村で出会った帝都も卓も基実くんも架空の人物になってしまったからとみんながあたしを甘やかしている。


甘やかされていることはわかっていると伝えれば家族はみんな笑ってそれを否定する。


あたしの話はやっぱり今も昔も信用されないのかもしれない。


祖父母について、両親について、人質村で実の両親だと思い込んでいた義理の両親についてあたしは最近信じられるようになってきた。信じない祖父母が信じられて、信じない両親が信じられて、実は誰よりもあたしに甘いのはおじさんだということを誰も言わないその優しさもあたしはすごく信用できる人たちだと思わせてくれた。


鴉と友達になれたのはそんな頃だった。

誰も信用できないからと誰かがあたしに鴉を与えた。


神様がきっと与えてくれたんだ!というと、家族はみんな嘲笑した。

「馬鹿じゃないの?」と言わんばかりの冷たい視線が妙に腑に落ちた。


ーこの世界に神様はいない。少なくともあなたには。


時空旅人との出会いはあたしに不確かな現実を与えた。

サリンジャーもGyroもあたしにとっては味方だった。いい人に見えた。いい人だったし、あたしがわがままを言わなければなんでも誉めてくれた。

すごいね、すごいね、と馬鹿みたいに。


どちらかが何者であるかを知ったのはこの世界に神様はいないと理解したあの日だったのかもしれない。


東西に分かれた世界の原点に私が立っていた。

およそ2000年前。あたしはそこに行ったことがないけれど、サリンジャーもGyroも確実にそこにいるんだとあたしは理解した。

だってあたしはその原点からふたりを見下ろしているのだから。

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