第11話 帝冠任務の休日

帝都と基実くんがあまりにも素敵だから世界中の男の子がふたりの真似を始めた。

イライラする。ムカつく。特に銅河原のセブンティーンズのカスやバカには話が通じなくてあたしはペプシコーラをぶっかけるくらいに怒りが抑えられない。

「めぐちゃーん、久しぶりー!」

建設作業員姿のあたしにスーツの誰かが馴れ馴れしく話しかけてくる。あたしはスーツ姿の日本人男性が大嫌いだった。無知で見栄っ張りで虚栄心の本性を隠すために同型同色で身を包んで出る杭とならないよう互いに協定を結んでいる。白々しくて最も興味がない量産型だ。

目の悪さも手伝って睨みつける。それでも懲りずに近づいてくる。

「ああ、なんだ、一介さん。なんでこんなところにいるの?」

翠蘭さんの実弟の一介さんだった。おしゃべりがうまいのに根暗なところがあたしそっくりであたしは大好きだった。

「姉さんが今最前線に立っちゃってるでしょう?危ないからちょっと裏方回ってくれってスカーニーから連絡が来て」

「あたしのお守り役?」

「まあ、半分はね。それにしても機嫌悪いね、どうしたの?ちょっとおじさんに話してごらん。缶コーヒーおごるよ」

あれだけ稼いでるのに「缶コーヒーおごってあげるよ」と誇らしそうに言うところがあたしと似ている。それもまた好きなところだった。

「セブンティーンズがうるさいの。何も知らない流浪遺伝子たちはあたしが帝冠任務についていないくせにって言うの。しかも特殊部隊は帝都や基実くんのモノマネをしてあたしのまわりをウロウロして。あたし勉強したいのに、うるさくって集中できやしない。バカでカスって言ってるのに全然びくともしないの。何なの?あれ」

蝉の鳴き声がミンミンゼミに変わり始めている。騒がしい鳴き声があたしたちだけの空間を作ってくれる。夏が終わり始めている。秋への準備がはじまっている。

「彼らは債務者だから。借金があるからやっぱり従うしかないと思うよ」

「亜種白路に借金しているってこと?」

「そう。国籍も取り上げられて働くしかない」

「でもさ、亜種白路はお父さんにまだ借金返してないじゃん。それなのにどうしてセブンティーンズに貸してあげられるだけお金あるの?それってお父さんから借りてるお金を貸してるだけでしょう?自転車操業じゃん」

「鋭いこと言うね」

一介さんが渋い顔をした。それを言ったらおしまいというような男性独特の引き攣った顔。男の人ってそこまで言わなくてもいいじゃんって顔をよくする。言わなきゃわかんないってケンカのたびに女性に言うくせに、自分達はいざというとき閉口する。肝が据わってないとイライラする。

「お父さんは懐が広いと思う。優しすぎたとさえ思う。でもあたしはクソ真面目だから懐極狭だから。お父さんみたいに優しくはできない」

日が暮れ出して一匹で鳴き始めた虫が一匹、一種類と時間と共に重唱になっていく。

一介さんとの帰り道、あたしは足元に一匹のゴキブリを見つけた。飲食街の端っこの方だった。思い切り右足で踏みつけて一発で殺した。それを見ていた一介さんは何も言わずあたしの顔を唖然と見つめた。

「いい?一介さん。虫が怖いならなおのこと殺さないとなんだよ。あたしは田舎で育ったからよくわかるの。一匹を残しておくと必ず増えるの。収穫時期に苦労しないためにもきちんと殺虫しないとだめなの。ほら!またいた!!」

今度は左足で踏みつけた。足の裏の感触で一発では仕留めきれていないことがわかったから、そのままジリジリと地面に擦り付けるように重圧を加えた。一介さんはさっきよりもひどい顔であたしを見つめていた。




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