第10話 微分積分の解答
帝冠任務に仲間はいない。引き摺り込まれてガブリエル検域で亜種白路に拾われるか、それとも時空旅人になるか。
銅河原は一見して何の変哲もない河原だ。石蹴りをする子やバーベキューをする家族、夜になれば花火に興じる学生たちも多い。
亜種白路と百舌鳥柄は銅河原のフリーシートを独占できるように、輪番を組みながらその席を確保している。互いに敵でありながら互いに味方である。干渉しないように、侵害しないようにそれでもチームワークを欠かさない。次の駅で降りることがわかっているかのようにその席の前で順番を待つかのように。
フリーシートの場所取り従業員の彼らもまたかつて銅河原で亜種白路か百舌鳥柄に拾われた人々で、ガブリエル検域でケルビムとセラフィム、それから三閉免疫を差別的に見てしまったがために従属しなければならなくなった人々だ。
基実くんはすでに20年前に銅河原を経験している。再会した時、あたしは一瞬誰だかわからなかった。それくらい基実くんは良い意味で見た目も雰囲気も変わっていた。
3年前、あたしが知らないうちに迷い込んだ銅河原で亜種白路に帝冠任務に引き摺り込まれそうになった時のことを今になって時々思い出す。
わがままにも帝冠任務を固辞した。何もわかっていなかった当時のあたしの言い分は「あたしはシャイだから。人前にでることが本当に苦手なの。それなら裏方で支えたい」。
亜種白路は押すことも引くこともできないこの言い訳に悔しさを滲ませていた。
こんなわがままは本来なら通じない。でもあたしがMjustice-Law家の人間だからきあかないわけにはいかなかったのだ。そんなことも当時は誰も教えてくれなかった。
あたしと関わったことが一度でもある人はこの3年で帝冠任務に従事した。帝都を除いた全員が亜種白路に拾われたから、この夏、烏鷺棋処分を受けることになった。
帝都は基実くんから事実を知らされて三閉免疫に逃げ込めた。最初はケルビムの一清掃員からのスタートだった。縦社会だから特別待遇でも一兵卒からのはじまりを経験しなければならない。今では立派に右炉を務めている。
三閉免疫の門は閉じられている。免疫不全を作り出したのは百舌鳥柄と亜種白路、彼らに拾われた最近の帝冠任務者はその天国の門を幾度も叩こうと試みては銅河原を訪れているらしい。しかし、そこはすでにケルビムが清掃を行いセラフィムが整地を始めている。門を叩けば、烏鷺棋処分案件として印鑑が押されてしまう。
あたしは帝冠任務を固辞して、自分の殻を持たなければならなくなった。帝冠任務に勤しむ基実くんや帝都をうらめしく思う時も時々あった。
「あたしはこんなに寂しいのに、、、」と。
基実くんは優しいし、帝都は言葉を選びすぎて何も言わなかったけれど、あたしは今時々帝冠任務を考えては事実を実感する。
帝冠任務は孤独という乳飲み子を抱えながら目の前にいる敵を斬り殺さなければならない。家に帰ってもあたしがいるわけじゃないし、孤独と共に血生臭い嫌味が体と心を蝕んでいく。
ごめんね、基実くん、ごめんね、帝都。
「帝冠任務が1日も早く終わりますように」
そう挨拶を締め括った瞬間、あたしは新しい元老院たちの前で泣いてしまった。
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