第9話 Crazy Clever Crow

「烏鷺棋の廃棄処分は俺もけっこう褒められたけど、いやあ我が娘ながらイカれたことを考える」

お父さんは褒めてくれる言葉がいつも分かりづらい。天才だと言われ続けたことにあたしは長年娘ながら疑問を持っていたけれど、最近なんで天才だと言われてきたのかがよくわかるようになった。

お父さんはすべてを知っていてブラックジョークとホワイトジョークの中間地点で青や赤を示している。

注意して聞かないと今の信号が進めの青なのか止まれの赤なのかわからない。

天才が考えることは違うと言われるけれど、天才なのはたくさん勉強してあらゆる知識の中間地点を見つけることがうまいからだと思う。

「お父さん、烏鷺棋好きだったでしょう?」

「そんな時もあったあった!」

ややあって、なんとなく理解した。


業火の隠秘は帝冠任務に携わる人間との間に交わされる契約書のようなもので、所属を含めて最後はどのように終わるかというところまで詳細が記されている。Mjustis-Law家はもともと植民会社で儲けたようなところもあるから、契約書の作り方はうまかった。定款と共に法律を付随させる。そして、自分達が唯一の独占企業であることすなわち唯一の立法であることまで示すのだ。


烏鷺棋の処分方法を私は真面目に考えた。

「亜露村が事実上の借金を形成できているのは亜種白路と百舌鳥柄の援護があるからで、その軍資金はあたしと須野糸成を当代の夫婦と偽って売った偽物の証券だ。世界中がつかまされた証券には実態はない、信用も信頼も裏書きされていなかった。証券は世界中を覆い尽くし、病院に行けない人や薬さえ買えない貧困を何億人と生み出した。その責任の取り方はサドカイ派を基軸通貨とする当代の父の信用のもとでは受刑しか方法がない。まずは8月のうちに亜露村と亜種白路のメンバー、荒野の米を食べたすべての旧秘書客体を人体実験に送る。ヴァージニアやヴィクトー、アーサーやジョセフなどのIOSにも手伝ってもらうことに意味がある。世界中を覆い尽くした問題は決して旧秘書客体とMjustice-Law家の相対的な問題ではなく包括的な地球規模の不都合な真実だったのだから」


ひとりひとりに渡された借用書にはひとりひとりのサインがされている。それを逆手にとっての処分方法だった。


ヴァージニアとアマンダが私にキスをしてくれた。外国の女性は好きだ。愛情表現がわかりやすいしあたしに似ている。

ヴァージニアはあたしにいつも言ってくれる、「あなたが生まれた日の雑誌を世界中から集めて見せてあげたい。どれだけ喜んだか、どれだけ世界中があなたとあなたのお母さんを愛したか」


お母さんは世界中に愛されていた。あたしも生まれたその日から世界中が愛してくれた。でも旧秘書客体たちにとってはお母さんも私も人質でお父さんをゆする材料でしかなかった。

お父さんは優しい人だからお母さんとあたしが平穏に暮らせるならばと、自分は耐え忍び2023年5月まで沈黙を貫いた。

お父さんは誰よりも強くて男らしい。目尻を下げてあたしを見ているその姿をお母さんに見せてあげたい。

お母さんをいじめた旧秘書客体すべての人体を奉献してでもお母さんにお父さんの今の姿を見せてあげたい。

烏鷺棋の廃棄処分がはじまった。あたしはワクワクしている。

あたしの烏鷺棋のシンボルは鴉だ。椿を背にした鴉は血の因果を自分のカラーに染め上げる。黒は何色にも染まらないから。



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