第6話 2種の死
鍵の在処が三閉免疫家業のなかにあったと知った亜種白路は急遽百舌鳥柄連闘とKTCと会議を開くため三閉免疫不全たちを監護しているイレブンスに理事たちを招集した。招集権限があるのは亜種白路のスカーレットと山蘇野智柚、百舌鳥柄連闘の三条院忠兼、三閉免疫不全は代表して多胡開望と長尾紀営が必ず出席を強要される。今回は免疫系の話であったためふたりのほかに寄田忠兼とZyaylaも出席を強要された。
「強要されたとは人聞きが悪い」
会議の開口一番、亜種白路の総意を述べる役目は決まって麻野道信だった。彼はすでに社会的死を与えられた自由人であるから、何を言っても痛くもかゆくもないことはよくわかっていた。死とは触感が鈍磨するはじまりである。終わりのはじまりとはまさに死から滅亡に向かうスタートラインなのだ。
麻野はすでに死から1年が経過している。神経鈍麻期間はすでに終わり、最終段階の臓器腐食期間に突入していた。
「すみません、気をつけます」
腐った匂いに鼻を覆ってしまわないように多胡開望と長尾紀営は最新の注意を払った。
「開ちゃん、臓器腐食期間のやつ見たことある?」
翠蘭は開望が親に叱られるといつも決まって臓器腐食期間の話をした。Leeは双子の弟が心配で黙って翠蘭にくっついて来ては開望の隣に座って彼なりに弟を慰めた。夏の夕暮れはそんな思い出ばかりだと開望はこの時ふと思い出した。
「あのね、臓器腐食期間のやつは神経鈍麻を乗り越えているから痛みを知らないの
人間だと思ったらだめ。話は通じないし痛みはわからないし。あのね、開ちゃん、Lee、感触鈍麻がはじまるスタートラインに立たされた死を罰っていうのよ。そういうのは決まって亜種白路たち。あたしたちみたいな三閉免疫系は免疫力が弱いから彼らみたいに鈍麻にはならないのよ」
目の前で麻野が落ちかけている目を手で押さえながらこちらを見つめている。何か言ったほうがいいのかもしれないし、何も言わないことでこの匂いをやりすごせるのかもしれないし、判断がつかない。
焦っては目が奪われ、考えては耳を奪われる。
「麻野さん、まあいいわよ。会議をはじめましょう」
スカーレットは一番奥の席に座る。彼女は亜種白路のなかでも理事長レベルの階級を恵の世話役を自認することで守り続けてきた。スカーレットは義母を意味する。実母の衣子よりもきつい赤は親子の情ではなく義務的な仕事の色合いが濃いことを意味するためだ。
「かしこまりました。資料をくばれ」
ーーいよいよ、言語にも障害が出てきたな。
開望はゾッとした。紀営とふたりなら切り抜けられるかもしれない。左隣の紀営に目をやった。
「おい!!!紀営!!!」
声に出して自分が最もやってはならないことをしてしまったと気づいた。
スカーレットの蔑みと、智柚の嘲笑と寄田とZyaylaの冷たいため息が開望の首元に突き刺さった。
「開ちゃん、あたしたちは三閉免疫系なの。忘れてはダメよ」
翠蘭が言った通り、開望の目が覚めることはなかった。それはそれでよかったのだ、あいつが俺たちの兄弟である証明だったから。
Leeは翠蘭に開望が死んだことを伝えた。翠蘭は衣子に開望が死んだことを報告に行った。
「時空旅人になっていればと思ったんだけど」
衣子は黙ったまま翠蘭を見つめている。
「ごめんなさい、今聞くことじゃなかったわね」
衣子は黙ったまま微笑んで翠蘭を見つめていた。
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