第5話 御簾

カーテンの内側に囲ってしまおう。

基実の言葉をめぐみさんはとても喜んだ。エルザ・ヨウは困惑した表情を一瞬したけれどすぐに納得したし、恵司はふっと笑ったし、スカーニーもロベルトの仮面をかぶっていたバロウもそれは良いアイディアだと頷いた。俺?俺はもちろん大賛成だった。この日初めて俺は基実と仲良くなれそうな気がした。


作戦は5月31日、22時、スカーニーの合図で基実がカーテンをいっきに引き下ろした。

亜種白路も百舌鳥柄も三閉免疫不全も流浪遺伝子たちも突然のことで慌てふためき互いに手当たり次第連絡を取り合っていた。むこうの混乱が俺たちには追い風となったことは漁夫の利のようなものだったけれど、あの日から業火の隠秘は新しいステージに突入した。

三閉免疫不全の隔離政策が強制的に行われた後、スカーニーやロベルトの仮面を被ったバロウを頼って免疫症候群の治療を続けていたかつての人々がこの街に少しずつ集まり始めたのは6月1日、めぐみさんの養父だった正宗さんの誕生日の12日には33団体が再結集し、三閉免疫症候群の治療と共に隠秘のうちにそこかしこで業火を炎上させはじめた。


スカーニーは15日高らかに宣言した。

「三閉免疫は不全ではなく症候群だった。この症候群は不治の病ではなく、百舌鳥柄や亜種白路と同様に遺伝子配列の問題であることは俺たちがよくわかっていた」

すべての三閉免疫症候群にとってスカーニーは憧の存在だ。スカーニーの演説を33団体の面々は泣いたり緊張したりしながら誰もが真剣に聞いていた。


カーテンの内側に囲われためぐみさんと出会えるのは33団体と俺たちだけ。

ソレとしてのめぐみさんは18日に俺たちにサプライズプレゼントをくれた。

「接触制限の権能をスカーニー、バロウ、基実くん、恵司くん、帝都、エルザ・ヨウに与える。それぞれに与えられた国の自治はそれぞれの思いだけで形にすることができる」


俺にとってはじめての戴冠式だった。

称号をもらった俺はいまだに動き方がぎこちない。

めぐみさんはそんな俺に文句を言う。

「もっと帝都を見たいのに!!!!」

わがままを言って俺に期待していることはわかっている。

帝冠と言われた冠よりも重いこの称号は世界中でたった6人にしか与えられないMjustice-Law家のファミリーにのみ与えられる称号だ。

めぐみさんは俺を選んだ、基実を選んだ。亜種白路ではなく、俺たちが最初に出会った亜露村の人間関係ではなく、ただ個人的にひとりの男としての俺や基実を選んだんだ。

めぐみさんのグレーの目がときどき青くなっては俺に伝える。

「帝都、あなたがいいの。あなたじゃなければあたしはすぐに見破るから」

俺が黙っていると、疑われたと思ったのだろう、めぐみさんは続けてこう言った。

「あなたは沈黙を愛する人だからすぐにわかる。沈黙を愛する人であるあなたをあたしはすぐ隣で33年前からずっと愛してきたのだからすぐにわかるの。それは勇気でも愛でもなくて、ただあたしのわがままだったから」

亜露村はめぐみさんの秘書やフィアンセになりすますために、俺や基実を幾度も殺そうとした。その度にスカーニーがバロウが、そして三閉免疫症候群の33団体が俺たちを守ってくれた。

めぐみさんは15日のスカーニーの演説にこんな文章を寄せている。

「帝都と基実くんをずっと守ってくれてありがとう。いつも私に寄り添ってくれてありがとう」

カーテンの内側のめぐみさんはこういう女性だ。俺たちだけが知っている。称号をもらった俺たちだけしか知ることができない、この先ずっと。





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