第3話 ソレ
卓と紹介された俺に似た男はロボットのように表情を変えない。俺よりも生きる力のない人間らしきものに出会ったのは案外初めてかもしれない。
「卓と名前をつけたのは君の名前に由来するんだ」
「は?」
俺と正良さんが出会ったのはこいつが生まれた後じゃないか。
「志碧を見たことは?」
「時々あります」
「めぐちゃんと会う頻度と比べるとどっちが多い?」
言葉に詰まった。最近は、、と付け加えるとさらに混乱するし、以前からの平均的な感覚を思い出そうとすると、なぜか志碧が見えなくなる」
「亜種白路とはそういう人たちなんだよ。君やめぐちゃんが育った亜路村のことを君は今、どう考える?」
「印象としてですか?それとも経験としてですか?」
「どちらも」
あの村のことは俺にとってはかりそめのようなもので、実際俺はどこで生まれたかとかどこでどういう取引があって来るようになったのかとか育ての親は何も教えてくれなかった。ただ4歳のときに、彼女と出会って、ただ一緒にいるようになって、ある日突然いなくなって、それが自分の体の不調を認識させた。村については何もない。けれど恵に関してはたくさんある。亜路村とはただの入れ物、ただの仮置き場、一時待機しているような、、、
「印象としてはまあ暮らしやすいところ。経験としては恵と出会ったところです」
「うん。君が言うようにあの村はとても美しくて完璧で、神が作った不完全さの美を完全に再現しているような街なんだよ。でも、それは単に入れ物なんだ、君が言うように。決してあの村が特別な意味を持っているわけではない。卓もそういう存在なんだ」
卓の口元が引き締まる。奥歯を噛み締めるよりも含みを持たせたその表情に俺は見覚えがあった。
「昔、亜路村にいたころ、同級生に、、志碧のような存在がいました」
「本当に?彼は時空旅人だよ?」
「だから、いたって不思議はないじゃないですか」
「衣子もそう思い込んだ。そしてその感覚から抜け出せずに卓が生まれたんだ」
言葉に詰まる。難解なパズルを頭の中でなんとか解こうともがいた。
「衣子は恵を大切に思うあまり、DNA鎖の蛇に取り憑かれてしまったんだ。事実が何であるかを将来から与えられているという信仰心が彼女の心を腐らせていった」
正良さんは力無く笑って最後のピースをはめた。
「彼女がソレだと言うのに俺たちに何かできると思う?たとえ親でさえもその領域には立ち入れない」
DNA鎖の蛇システムは亜種白路のほうがうまく使いこなせたという意味だ。彼らは恵に対して愛がない。それがうまくシステムを使いこなせる理由だった。
衣子さんとLeeの隣にあった白くぼんやりしたものの正体を俺は理解して吐き気を感じた。
いつも一緒に遊んだ恵は、、、。
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