第2話 ぼんやりした白いもの

衣子さんとLeeとはじめて会ったときのことを俺はよく思い出せないでいる。衣子さんの左側にぼんやりとした何かがいて、その存在が初対面の記憶をあやふやにしているような気がしている。

すべて気のせいなんだと自動的に脳みそが働いていた。

Leeはどこか基実に似ている。でもやっていることは真逆に思えて仕方ない。

近くて遠い国、それが韓国と日本というものなのだろう。これもまた俺の脳みそが自動的に働いて決着をつけていた。


帝冠任務5年目のある日、正良さんが俺を珍しくオフィスに呼んだ。

「失礼します」

部屋の中はいつものごとくラベンダーの香りがする。どうやって補充しているのかはわからないが何か他の匂いに入れ替わったことは一度もないように感じる。

「いらっしゃい。ごめんね、忙しいのに。どうぞ座って」

「はい」

「何か飲み物を、、コーヒーだっけ?」

「正良さん、それは建前上で」

むっとすると、正良さんは笑った。からかったのだ。

「ああ、そうだった。冷茶を持って来させるよ」

内線の先は隣家につながっていて、俺はその家で衣子さんとLeeとはじめて出会った。

「帝都くん最近どう?なんか困ってることない?」

「いやあ、、、正良さんが言っていた意味がよくわかりました。Redは大変です、本当に」

「だろうね。Redはめぐちゃんのだからねえ。まだ持ち主がいないんだよ。ちなみにどうしてGreenにしなかったの?だいたい俺が依頼するとGreen選ぶ人多いんだけど」

「あー、、、」

「いいよ、正直に教えてほしいだけなんだ」

「恵さんと俺、学年色が緑だったんです。それを仕事に持ち込むのは気分悪いなって」

女々しい男であることはこの5年間でよく自覚した。虚勢を張ることも虚栄心の無意味さもこの仕事の中で俺は獲得したと言ってもいいかもしれない。

「うんうん、いいね!さすが帝都くんだよ」

「失礼します、お茶持ってきました」

俺がしゃべったのかと思うほどにそっくりな声に一瞬心臓が止まりかけた。正良さんはいつもと変わらず「どうぞ」と部屋にそれを招き入れた。

「紹介するよ、息子の卓だ」

「えっ、、、、」

俺よりも少し背の高いその男を正良さんは息子だと紹介した。たしかに目鼻立ちが正良さんそっくりだ。でも、、、

「帝都くん、今日は家族の話を聞いてほしくて来てもらったんだ。衣子のこと、めぐちゃんのことそれから卓のこと、あとは、、、志碧のことも」



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