第23話 難治性接触不全

複合存にのみ見られる病であることは複合存の遺伝子が最も濃いあたしの検体の結果を見て認定されることになった。


難治性接触不全は複合存の遺伝子を持つ者同士でしか接触を受け付けない病だ。

かつては死恋狭窄などという言い方をしていたが、今は遺伝子がより厳密に分類され複合存遺伝子にのみ見られる先天性の疾患と臨床結果が報告された。

難治性という冠詞に関しても疑問が呈されることになる。これは難治性ではなく複合存遺伝子とイコールであるということからも先天性とすべきではないかと。


セオや群青は病気の先輩だから今までの経験を聞いてみようと思った。

どんなことに注意すべきか、どんなふうに日常生活を送るべきか、またどんなふうに病と付き合うべきか。


セオは眉間に皺を寄せながらなるべく私と目を合わせないようにしながら、苦しそうに話してくれた。

「まず、異性との接触はその君の器官の奇妙な発達に頼らない方が無難だと思う。どんな色をしているかなんて普通はわからない。その普通のやり方で対処するのが何よりも安全なんだ。それから、友達という名前のものとは距離を置くべきだ。俺は群青とさえ長年友達にはなれなかった。生活はまず孤独であることを覚悟するべきだよ」


群青は自嘲するように、やっぱりセオと同じようにあたしと目を合わせないようにしながら、面倒臭そうに早口で話してくれた。

「同じ病の友達は世界に何人いると思う?セオ、俺、君、基実、帝都、だいたいこれくらいだよね?単純に考えて。ああ、あとスカーニーやビル、セバスチャン、オルレアン、ゲオルギ、アルバートもそうかもしれない。でもオルレアンは三閉免疫症候群という複合存でも接触障害を起こさない素晴らしい人々を見つけたから君たちは俺たちに比べてラッキーだって自覚は持った方がいいね。とにかく、接触不全はそれくらい小さな世界に生きることを強いられるってこと」


フランス語だからよくないのかもしれない、英語だからよくないのかもしれないと思い、基実くんや帝都にも聞いてみることにした。


「めぐみさん、俺がなんでめぐみさんを追い求めてここまで苦労してるかって俺と同じ接触障害の仲間だからだよ」

帝都がこんなに自分の意見を自分の言葉で明確に伝えることは珍しかった。だけどだからこそよく理解できた。


「中学の頃、同級生の中で俺やめぐや帝都だけが異質だったでしょう?意味もなくめぐは女子に嫌われ、意味もなく俺や帝都は男子から嫌がらせをされた。あれが世界規模になって病名ついただけ」


「じゃあ、この先どうするの!?」

基実くんの言葉でいよいよ現実が理解できてきて、思わず悲鳴に近い声になってしまった。

「俺がいればいいじゃん」

色盲のごとく基実くんは色への頓着がない。ピンク色でも真っ赤でもあたしならそれでいいらしい。あたしも基実くんなら何でもいいけれど。


難治性接触不全はこんなところで世界の狭さを補完しているのかもしれない。

あたしたちだけの恋が根深い理由はきっと病気のせいだ、生まれ持った遺伝子の運命のせいだ。

基実くんは子守唄が上手だ。あたしの安眠方法をよく知っている。

あたしは今夜はきっとよく眠れる。

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