第22話 Cabinet Meister
また衣子さんから小包が届いた。その日はみんな出払っていたから再配達の手紙がポストに入っていた。雨がふっていたせいで、紙はびしょ濡れ、なんとかQRコードを読み込んで再配達をしてもらった。
「今度は誰なんだろう?」
「わかんない、、なんか怖いよね」
「うん。でももう帰ってくるやつなんていなくない?」
恐る恐る小包を開ける。
「こんにちは、はじめまして、ようやくお会いできましたね。これは衣子さんからの手紙です」
危害を加えないという意思表示のために衣子さんからの手紙をあたしにまず手渡した。あたしが読み終わる間の拘束を受け入れたことにも誠実さが感じられた。
小包の中身は麻野道信さんだった。
「めぐちゃん、お父さんが倒れてからの時系列をもう一度考え直してちょうだい。麻野さんがなぜ臓器腐食に陥ったのか。お母さんも臓器腐食で時空旅人を諦めたひとりだけれど、めぐちゃんはお母さんが嫌いですか?やっぱり新しいお母さんの翠蘭さんのほうがいいですか?お母さんは今はもう会えないからこんなふうに手紙を書いたり、小包を送ったりして関わってあげることしかできないけど、お母さんだってめぐちゃんのことが大好きです。忘れないでください、それぞれに役割があって、その最中にお父さんが倒れてしまったことを」
手紙の3分の2が恨み節に聞こえてなんだか居た堪れなくなってしまった。
頑張っていますか?とか、よくやっていますね、みたいな母親らしいことが一言も書かれていない。こういうところを見ると、お父さんが恋をしたことがよくわかる。対等な感覚が無意識にあることが窺えるからだ。
「麻野さんって亜種白路の人なんでしょ?ジェラルド麻野が養子じゃないの。あの人ほんと嫌な人だった」
「亜種白路のカナリヤがお目付役として押しつけたんですよ。私がエキセントリックな行動をこれ以上しないようにって」
「亜種白路にマイナスになることしてたの?」
「スカーニーさんは何度も私にキャビネットをくださった。マークされることは必然です」
両眼を上に向けてタイムラインみたいに年表を作ってみる。
麻野さんの活躍と終焉はなぜ起きたのだろうか、、、スカーニーがプレゼントしない限りこの世界にキャビネットはできない。この世界でキャビネットを作れるのはMjustice-Law家だけだからだ。
でもなんでだろう、、、
「タクト・ホルムズ=ストレイトというKTCの人間を覚えていらっしゃいますか?」
「もちろん!今週末にお焚き上げがあるの」
「そうでしたか!今週末は他には誰が?」
「KTCと亜種白路であたしと接触経験のある人は全員って聞いてる。あとは細々したGossipとか、、、そうそう!亜種白路の兵隊にはセオや群青のテリトリーの死刑囚も含まれていたらしいの。あたしびっくりしちゃって。ねえ、麻野さん、どうして死刑執行が遅延していたか知ってる?」
「めぐみさん、それはだめですよ。元老院の教育儀礼のテストの内容でしょう?教えられません」
麻野さんはこんなふうに始終あたしに敬語を使ってくれた。こんなことは初めてだった。
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