第21話 返品不可

「返品不可」

さすが衣子さんだと思った。あの人は先手を打つ。


10月2日、スカーニーは衣子さんと共に硫黄のどこかに行ったはずだった。俺たちはスカーニーを涙ながらに見送ったし、めぐも覚悟を持って今の仕事に取り組む決意をした。女性で、あの若さでひとりですべてを背負って立つなんて無理だ。その無理な仕事をふたつも背負い込んでいる。絶対無理だと思った。でもやらなければという火事場の馬鹿力が働いているのか、そういう星のもとに生まれたのかは知らないが、生まれ変わったように冷静さと的確な判断を連発していた。


衣子さんが返品した返品不可の段ボールの中にはスカーニーが詰め込まれていた。

宛先はめぐじゃなくて捜永、これも衣子さんらしい。


「中に何か手紙とかは?」

「いやあ、、、どうだろう」

雑にスカーニーを取り出して、段ボールの中を点検する。

「なさそうだけど、、でも、返品不可って」

「うん、どうすんだよ、、、めぐちゃんにどう説明すればいいんだろう」

「とりあえずお茶でも飲みながら対応考えるか」


そういえば昼飯も食べていなかったと、慌ただしく家の仲が日常に戻っていく。俺はたまたま非番で、めぐの外出が午前中のみだからということで捜永の家に来ていたから、この返品については偶然居合わせたということになる。

監永が出入りして、翠蘭さんが出入りして、亜種白路との面談も分刻みで行われて、とにかくこの家は慌ただしい。


昼過ぎ、めぐが帰宅した。キリッとした表情が別人のようでまだ慣れない。

「あれ?!なんでスカーニーいるのよ!!!」

俺よりもスカーニーに目が行ったところが悔しかった。

「ああ、めぐちゃんおかえり。よくわかんないけど、衣子さんが返品してきて」

「見てよ、返品不可とまで書いてきて。なんか心当たりある?」

「知らないよ、そんなの。なんで返品されたのよ?」

スカーニーはニコニコしている。

「段ボールの中も見たんだけどそれらしい手紙もなくて、宛名は捜永宛。なんでめぐちゃんじゃないんだろうってさっきから謎だらけで」

「はあ?スカーニー!なんで帰ってきたのよ!衣子さんに何か言われたの?」

捜永とバロウが顔を見合わせている。

「まあ、事情はわからないけど、きっとそのうち連絡があるんじゃないかな」

「あんたに聞いてない!さっきから何なのよ!!あたしはスカーニーに聞いてるのよ!!」

スカーニーはニコニコした表情をこわばらせた。

「めぐちゃん、そんなに怒らないで。ね?」

バロウが仲介しようとする。

「怒ってるんじゃないのよ!事情聞いてるのよ!!」

捜永がハッとした表情をした。翠蘭さんもスカーニーを見つめている。

「真実を説明してこいって言われたんだ」

「真実?」

「やられたらやり返せって」

しんと静まり返った部屋で段ボールが崩れ落ちる。スカーニーがいなくなってからこの家は掃除さえままならない。

「誰にやられたの?」

「もう少しゆっくり話したい」

「わかった。ちょっとあたしも着替えてくるから、それまでに話す内容まとめておいて」

呆気にとられる俺たちと自分の道をマイペースに進むめぐとスカーニー。

Mjustice-Law家の凄さを見せつけられた気がした。




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