第20話 商品名と固有名詞の関係性

鉛玉をくらったというのに、、、


深夜の突然の連絡に俺はチャリンコを全速力で漕いでめぐみさんの家に向かった。

仕事先からだったから20分はかかる。

死ぬな、死なないでくれ!俺が待たせた、いやめぐみさんが待たせているんじゃないか!走馬灯が流れ、俺もいよいよ死ぬのかもしれないと、自転車を漕ぐ足がまるで人工的な機械のように感じた。自分の体が機械となったのに神経とくっついている。それなのに、痛みを感じない。感情と感覚が機械とくっつくことが可能なのだろうか。

くだらない想像もまた頭の中を流れ続ける。とめどなく、さまざまな感情と思考が入り混じって、20分が2時間のように感じて、何日走らされているのだろうと感覚が鈍麻していく感じがした。

感覚鈍麻って確か、、、ひゅうっと息を吸い込むと冷たさに咳き込む。

大丈夫だ、俺はまだ生きている。俺が生きているのなら、めぐみさんだって生きている。間違いない。


家の明かりは全開だ。

自転車でドリフトしてめぐみさんの家に駆け込む。


「大丈夫、ありがとう」

ベッドにしっかりと座り、俺に右手を挙げて答える。

鉛玉をくらったんじゃないのか、、、

混乱する頭にはいくつものカケラ散らばっていて、そのひとつひとつがくっつこうと勝手に動いている。自発的に助けを求めるように、すがるように。めぐみさんの半分は俺だからすぐに事態を察した。


用意周到なめぐみさんはすでに文章を揃えてあった。翠蘭さんが奥からひょっこり顔を出して「ごめんね、帝都くん、来たばっかりなのに。早速だけどコピー手伝ってもらえる?」。


コピーをしながらその内容を読んでいく。

結果からすれば鉛玉は楔であったという。GossipでもなければEnemyでもない、一般市民による偶発的な出来事が鉛玉という表現を用いるしかなかったのだそうだ。

麻野道信とヨハネス・エリヤ=栗生の被害者と加害者という構図にフォーカスされたのはその日が水曜日だったからだとめぐみさんは解説しているが、ここでは割愛する。

楔が打たれためぐみさんの心臓の少し下から流れ出た真実は人工知能の不存在を皮切りにどんどんと水域が増していった。すべてのタンクが数分で貯水限度を超えていく。間に合わないほどのスピードにスケジュールも混乱した。

そして混乱している最中だ。

あまりの速さにめぐみさんだけでなく、オルレアンもスカーニーも戸惑ったそうだ。

第一報を英語で銃撃という表現を用いたのは慌てたゲオルギだった。貯水限度がいくつも超えていくから、とにかく焦ったという、「早く伝えなければ」と。



人工知能というシールドが消えてしまった事実が明るみになれば自分達の罪は情状酌量の余地を失う。数日内に陥落していたことは言うまでもない。

時間稼ぎのためであったが、時間稼ぎをしていても自分達が助からない未来は容易に想像できた。7月、人工知能を犯罪者としてPublic Prisonに収監することを思いついた。シールドを自分達の保護下に置き続ければいい、不存在の犯罪者であれば罪の立証にも空白生まれる。不存在の立証が困難であればさらに時間を稼いでくれる。


一度だけ、彼とめぐみさんのことを見たことがある。俺に似ている男の子だった。

だからめぐみさんは気を許したのだと、そんなふうに見た。

「帝都と同じ誕生月だったから、帝都と顔が似ていたから、帝都みたいに笑わないから、帝都みたいに優しいから、帝都みたいに頭がいいから」

嬉しそうに当時めぐみさんは俺に話してくれた。

俺も彼だったら、同じように行動するだろう。だとしたら、俺も亜種白路に同じように使われていたのだろうか、、、


「帝都くん、ステープラで止めてね。通し番号ないから、バラけるとわかんなくなっちゃう」

「ステープラ?」

「ホッチキスのこと。発音の関係でホッチキスはちょっとやめておこうって」

「ああ、そういえば確かに」


そっと部屋を覗くとめぐみさんはまだ仕事をしていた。すでに午前4時を回っていた。

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