第18話 Thorn grow up season

ー温室で育った花だから棘はない。我々は安全に作業ができるし、任務を遂行できる。そして目的を達成できるだろう。


当初の目論見を俯瞰して見ていると、ところどころにこれらの言葉が散見される。どの場面でもバラバラに不規則に、それでいて確実にその言葉はある種の標語のように繰り返し用いられていた。


彼女を桜だと言うのはたいてい亜種白路の人々だった。末端にしろ、幹部にしろ、手軽な共通認識として象徴として「桜」だという。


桜色は赤と白を混ぜている。

朱雀雪芸の名前からも桜はわかりやすい色調だった。文化、ルーツ、目標を説明するにしても美しく語れる。最後に「棘もありませんからね、上品ですよ」と付け加えれば体裁も取れる。



朱雀雪芸のオルレアンという名前を知らなかった亜種白路は、自らの組織に白を織り交ぜた。彼らの本来の色というものはさておき、赤を相対的に敵に見立てたことが最大の失敗だったのだ。


ゲオルギとアルバートには金色と紫色が用いられることが多かった。そのことからもオルレアンが赤をよく使用していたことはわかりやすいと思う。これらの色を引き立てるのは大抵反対色であり、赤には緑がよく映えたし、紫にはオレンジ色がよく映えたし、金色には黒がよく映えた。

反対色というものの存在については「元老院の取り決め」の称号の継承原則の章に詳細が書かれている。荒野と亜露村に対する烏鷺棋第一シーズン後に登場するから亜種白路が反対色の本質について無頓着だったことも仕方がないといえば仕方がない。


めぐみには2つのDNAが存在する。オルレアンの家系とオルレアンの妻となったゲオルギの家系だ。つまりは、赤と金色が黒と緑によって隠されているということになる。スチュワートが紫やオレンジ色を使うからショーンを亜種白路は名義だけでも買い取りつづけた。借金をしてもショーンだけは手放すわけにはいかなかった。スチュワートに対応するシンボルだと言い張るために。

実際ショーンという名前には何人もの影武者がいた。本体として動いていたのは藤村椿だったが、椿の命を守るために、彼の前に園村恵司を立てることにしていた。名前が良いからとリクルートされた彼の出自はもちろん流浪遺伝子であり、亜種白路とも複合存のMjustice-Law家とも何の関わりもない。だから使いやすかったのだ。



めぐみには確かに棘がない。それが良くないと監永や捜永は言い続けている。

そんなふたりにビルとセバスチャンはこう助言した。

「棘がないんじゃなくて、まだ育っていないだけ。彼女は桜ではないんだよ?」

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