第8話 新しい主治医
Leeと多胡の解任から一週間。
あたしにあたらしい主治医が紹介された。
「Bからはじまるから最初は警戒する可能性がある」
カルテの端書を見てしまった。あたしは「それなら大丈夫なのか」と理解して、新しい主治医は拍子抜けしたと父に報告したらしい。
DNA鎖の蛇は本初子午線と日付変更線で区別されている。
基実くんは左方向グリニッジ天文台の本初子午線で帝都は右方向ウェリントンの日付変更線なんだとか。
新しい主治医の名前はBill
「あなたはどこで生まれたのですか?」
「英国連邦です」
イギリス?オーストラリア?カナダ?ニュージーランド?
もしくは戦前に遡ればインド?中国?南アフリカ?それからアフリカ諸国?
歴史を辿ればアメリカもそういうことになる。
最近連邦政府とか連邦議会について勉強した。
連邦は外交面を担う専門部署で州は地域自治を担う専門部署。どちらも不可侵でありながらもどちらも支え合っている。本当に困った時は連邦がチームになって助けてくれる。広義でこれが共和主義なのかもしれないとあたしは独自の研究を進めている段階だ。
日本では民主主義が絶対視されている。みんなから集めた寄付金を同じ財布に入れて再分配する。だからその人の個性が活かされない。あたしは民主主義は好きではない。共和主義を勉強して強くそう思った。
「民主主義なんか死ねばいいのに」
治療中にBillにそう言うと、Billは笑った。
「なぜ?民主主義は死ななくても恵を殺すことはできないと思うよ」
「そんなことない!あたし何度も殺されかけたもの」
少し言い合いになってその日の治療は終わった。
次の治療まで3日、間があいた。あたしは勉強を進めた。今度は経済の勉強をした。
金融というものが出てきた。財政は金融の下にあるという構図は公然の秘密として、暗黙の了解のもとに世界は動いている。
「あたしは金融が好き。財政は金融に対して敬意を怠っている。なぜ?」
「この資料を読んでご覧。きっと答えを見つけられるはずだよ。英語の勉強にもなるから」
Billはあたしが生まれた年に発行されたアメリカのある大学監修の税制に関する報告書をくれた。
「これ、、、、お母さんのことだ」
お母さんは財政の管理下にいる女性だった。金融のお父さんとの恋愛が大問題になったのは財政の人々がお母さんを利用してお父さんの権益を奪い取ろうとしたからだった。
「どうだった?民主主義が死ななくても君は殺されないことや、財政が金融に対してなぜ失礼なことをし続けているのかもわかったかな?」
Billはあたしに紅茶を差し出した。
「やっぱりイギリス人じゃない。なんで英国連邦出身って言葉を濁したのよ」
「恵、大切なことはイギリス人であることじゃないんだ。英国連邦であることなんだよ」
連邦や共和主義という感覚があたしにはまだ根付いていない。Billは大切なことをあたしに気づかせるやり方で治療を進めてくれる。
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