第7話 Not Keys Enter
蛇システムを作る時の衣子は正良の存在をすでにうとましく思っていた。俺のそばから離れて作業して、正良にも愛想をふりまいて、もうぎりぎりなのよと毎晩俺にいろんなことを強請ってきた。
見過ごしていたわけじゃない。しっかりと締め付けていたつもりだった。
SWLを作ったのは牧森麻弓とZyayla
旧態の右炉でよく仕事をしてくれていたMe-lizalyのことだから娘のことでもうまく仕事をしてくれると思っていたが、俺も言えた義理ではなないが、娘はやはり特別らしい。
多胡開望は央観に面倒を見てもらっていたが、その両親のエルザヨウとロベルトが放し飼いだったのがいけなかった。
俺が三閉免疫稼業に専従した経緯が百舌鳥柄支配の荒野だったことも俺の判断を鈍らせたのかもしれない。
SWLが創設されて十数年が経過し、「荒野の米は砂糖より甘い」というような言葉も生まれてしまった。
衣子がそのあとに誘拐されて行方不明だと言い張ったエルザ・ヨウのことは最初から怪しいと思っていた。天村君子もまた。
ロベルトとは幾度か話したことがある。多胡芳美とも。でも一番君が悪かったのは栗生善祈だった。
「スカーニー、善祈が荒野に出入りしているって聞いてますか?」
Mjustice-Law家の家督を継いでようやく元老院の日々が終わったとほっとした翌日、バロウが俺に耳打ちをした。
「自治区はすでに掌握されているらしいです」
「次は特区か、、、」
烏鷺棋でサンプリングした膨大な資料の中から俺はすぐに提案を導き出されるようになっていた。これを娘にもやらせるのかと思うと心臓が鉛になる。
SWL発足後、衣子が行方不明になってすぐ三閉免疫不全が発表された。行方不明中の衣子がもしもそう判断したとしたら俺は否定したくはなかった。免疫不全の発表を止めることができなかったのはそんな理由からだ。
不全が発表されて5年ほど経過して今度はKTCが公になった。SWLを隠すようにKTCがフロントマンを担っている。俺は確信した。
恵は俺と衣子の手元で育てることができなかった。元老院システムや烏鷺棋を経験しなければならないことの詳細も教えてやれない。
「スカーニー、あいつならたぶんできる。案外根性あるから」
基実はいずれ恵と共にUBYとしてH勲章を与えられる。今はすでに帝都や恵より先にE称号を授与されている。
基実のいうとおり恵は3年間で見事元老院システムと烏鷺棋をマスターした。そして、思わぬプレゼントをくれた。
「あたしを誘拐したのは牧森麻弓に頼まれたロベルト。ロベルトとエルザ・ヨウは百舌鳥柄から亜種白路に飛翔する条件にサインしたの。たぶんお父さんのこと自分達を支配する右炉の人だとしか思ってなかったのよ。烏鷺棋の烏鷺から右炉という名前で三閉免疫家業に専従していたなんて想像もしなかったんじゃない?」
こういう話し方は妹の翠蘭によく似ている。央観もいずれ恵に受け継がせることができるかもしれないと思うと俺は国土を丸焼きにしたい衝動に駆られるほど嬉しくなった。
血は争えない。いい言葉だと思った。
DNA鎖の蛇システム。央観にからみつく左吾と右炉の蛇はUBYとSWY
交互に輪廻する世界の仕組みを表現している。
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