第6話 風葬式

衣子が宿したその子どもの父親が亜種白路の山蘇野なのか、三閉免疫のスカーニーなのか。

「姉さん、衣子の子どもの父親は亜種白路に決まっているじゃないの。あたしたちがこの国に来た時にどれだけ面倒を見てもらったと思っているの」

天村君子がエルザ・ヨウに寄り添う。それを黙って見届ける役目はいつもロベルトだった。

「ロベルト!あんたどうしていつも何も言わないの!!あんたのせいであたしがいつも!どれだけ汚れ仕事をしていると思ってるのよ!」

エルザ・ヨウとロベルトの仲人を勤めたのが亜種白路だったからエルザ・ヨウは正しさを理解していても口答えすることができない。従うままでいることは彼女の正義には反したけれど義理人情には準じていた。その苦しみをロベルトにぶつけてみても反響することもなく、ずぶずぶずぶと沼の中に沈んでいく。手応えのなさにいつの頃からか、エルザ・ヨウは何もかもを天村君子に任せるようになっていた。

ロベルトは何も言わなかったのは君子とエルザの姉妹の関係性を他人である自分が介入することでより複雑化してしまうと理解していたからだった。女性性と男性性の溝があったことは大人であれば誰でも容易に理解することができるだろう。


エルザ・ヨウにとって妹の天村君子は同情すべき存在だった。

最初は政略結婚でカナリヤと結婚した。自分がいくべきだったのにとエルザは今も悔やんでいる。その後、三閉免疫に関しての可能性のために多胡芳実と結婚させられた。カナリヤとの間には息子が、多胡芳実との間には娘が生まれた。

他方、エルザ・ヨウは同じ移民のロベルトと結婚して衣子が生まれた。その衣子は三閉免疫のスカーニーと亜種白路の山蘇野に見初められて恵を産んだ。恵が当代となったのはスカーニー、山蘇野どちらであっても元老院であると言う証拠があったからだ。DNA鎖の蛇システムによってこのことは明らかだった。


「姉さんはあたしにいつも汚い仕事を押し付けてきた。それなのに姉さんはいつも幸せになっている。こんなことってないと思わない」

君子の本音には薄々勘づいていた。でも実際に言葉で聞くことは腕がもがれるような痛みと悲しみをもたらした。


スカーニーにとってエルザ・ヨウは義母になる。ロベルトにとって山蘇野は甥っ子になる。君子にとって亜種白路には返しきれない恩があったし、多胡にとって三閉免疫には帰れないほどの裏切りをしてしまった。



エルザ・ヨウとロベルト、天村君子とカナリヤ、カナリヤと君子の間に生まれたヨハネス・エリヤ=栗生、それから多胡芳実と天村暁子、、、

皮肉にも最初の家族写真が開望の葬式となってしまった。

「表向きは結婚式ということにしておこう」

提案したのはロベルトだった。家族の問題に初めて意見したロベルトにエルザ・ヨウは涙を流して最後を悟った。

「大丈夫、衣子は時空旅人になれたんだ。開ちゃんが時空旅人になれなかったとしても俺たちはなれるかもしれない」


経済特区が撤廃されてはじめての四閉免疫の仕事はまずエルザ・ヨウとロベルトの駆除だった。鼠取りと同じ形式を用いた。天村君子とカナリヤとヨハネス・エリヤ=栗生は吊し上げて、血抜きをしたのち博物館に展示した。多胡芳実と天村暁子は丸焼きにして焼き加減の実験台として消失させた。

亜種白路がこの物語を読んでいる頃にはKTCと百舌鳥柄が四閉免疫によって国外に輸送されている頃だろう。自分達が築いた経済特区に収監されるために。

亜種白路はこの島に取り残される。明日なのか、今なのか、2時間後なのかもわからないままただ彷徨うことを強要される。


DNA鎖の蛇システムを開発した衣子とLeeは役目を終えて風化風葬されたのは2日の正午。衣子が時空旅人になりきれなかった理由は家族が家族のうちに騒動を抑え込めなかったことへの抗議だったのかもしれない。


時空旅人はこの地上に戻る旅路の中で風化風葬を選ぶ人もいた。死後でさえも絶望を与えるのは生きている人間だということを思い知らせるためである。








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