第5話 まちがいさがし
よくしゃべる基実くんと、あいかわらずじっとりとあたしを見つめる帝都と。
冗談みたいな人生の帝都と、優等生そのものの人生の基実くんと。
「それも撹乱するための作戦なの?」
ふたりは双子みたいに顔の造形が似ている。性格は正反対だけど趣味嗜好がそっくりで、でもアプローチの仕方が全く真逆。
あたしはふたりを見分けるプロだった。
DNAの鎖の蛇システムを母とLeeはなぜ2連にしたのか、その真意はわからないけれど、あたしは感謝しているし、やっぱり母は元老院で完璧なまでに仕事をこなしていたのだと感動した。
ーーーもしかしたら正良さんは母の実務能力の高さにも嫉妬していたんじゃないだろうか。
両親と暮らしたことは実は一度もない。
時空旅人としての母は私の目の前に現れても他人の顔をしているし、父は現実に向き合うことで24時間を使い果たしてしまう。
母が時空旅人になっても両親は忙しく共働きだ。
エルザ・ヨウもまた24時間働きっぱなしだし、あたしも働いていないととめどなく涙と血が溢れてすぐに致死量に達してしまう。
基実くんと帝都がすべてを騙し尽くすまでにかかった年月は10年超。騙しすぎて、相手に叱られてしまったと笑い話にできるのも今だからだとあたしは知っている。知っていても言わないことが上品だと思う。
「俺はめぐみさんのそういうところがよかったんだ」
帝都はあたしと背中を合わせてそう感じさせてくれる。彼は蛇を見ることがなかったと言う、ただ感じたと。
基実くんの目の色は昔と今とでは別人で、同一人物だとわかる人はほとんどいないだろう。
あたし?すぐにわかる。わからないはずがない。
「基実くんは棚ぼた、帝都は奇跡」
基実くんについての比喩はなんとなくドラマチックには聞こえないと思う。
でも実際は帝都よりもずっとずっとドラマチックな展開だったとあたしは言葉を伝え続ける。
基実くんは用心深い。だからあたしの目ばかり見つめてその真意を見定める。
あたしの言葉が亜露村にいた時から真実だと判断したことには疑いの余地がある。
だって亜露村にいたとき、基実くんはあたしと目を見るどころか話したこともなかったんだから。
「めぐ、本当にそう思ってるの?」
「もちろん!だって事実でしょう?」
「俺は言葉はもらってる。君を最初に見たのは君の目じゃなくて言葉だったんだけど、それは知らなかった?」
基実くんの目を見つめる。真意を確かめるために。
「俺が君の目を見ているって?まさか!言葉を追っていたんだよ。目を見て判断していたのは今も昔も君のほうじゃないか。だからあの当時俺に気づかなかったんだだろう?」
「帝都は?」
別に話を逸らしたわけじゃない。でも、もしかしたら帝都もと思ったら聞かずにはいられなかった。
「俺は、、、どうだろう?」
帝都はあたしの後ろ姿ばかり追いかけてきた。あたしに危険が及ばないようにあたしにバレないように。
愛し方もそれぞれ。あたしの受け取り方も完璧ではない。
2本の蛇があたしに絡みついている。目を見て肌を感じて、体と言葉であたしを守っている。
そんなわけで、6月になってあたしは愛している以上の言葉を作ることに忙しい。
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