第3話 折り上げた名前
DNA鎖の蛇システムは衣子の死を持って解錠が困難となった。あれから10年が経過した。正良は力の限りこの島を揺り動かして鍵の在処を見つけようとした。もちろん亜種白路のほうも必死に鍵を探した。彼らは自分達が持っていると世間を欺くことで鍵の捜索時間を稼いでいた。
「恵がいれば心配ない。あいつらは頭が悪いだからそもそもDNA鎖の蛇システムが彼女のために作られたことを忘れているんだ」
俺はLeeという名前を混ぜ込んだ多胡開望として議場を制圧することに成功した。と言ってもそれは建前上、亜種白路の所属としての仕事は彼らの要求が第一でありめぐちゃんのことは二の次にしなければならない。それが契約だったからだ。
議場を制圧したおかげで、カナリヤやスカーレットとも面会を果たした。樹野や京のおかげで衣子を守ることもできている。
エルザ・ヨウとは一定の距離を保ちながらも、その関係性をロベルトがケアしてくれる。彼らは俺のおじさんとおばさんだ。もちろん血のつながりがある。
卓をリフトアップしていく時に、帝都の存在が邪魔になった。帝都と正良さんとの関係を理解しているからこそ、俺には俺の役割があると右側を封鎖している。
基実にも詳しいことを話していないたぶんエルザ・ヨウやロベルトもだろう。
鍵を探すうちに俺は面白いものを見つけてしまった。運が悪いとパートナーは顔をしかめておどけて見せる。
天村君子と栗生善祈の間には一人娘がいる。それが俺のパートナーだ。名前は暁子。
天村君子と栗生善祈は以前に養子をもらっている。ヨハネス・エリヤ=栗生。君子さんが亜種白路であることを人質とした押し付けがましい慈善事業であることは当初から俺たちもよく理解していたつもりだった。
藤村の家に高司と嶺司という人がいる。カナリアよりも黄色みが薄くて、スカーレットよりも赤みが薄い。
「こんにちは!僕、栗生くんといっしょに仕事をしてる藤村玲です」
亜種白路らしい佇まいと話し方に俺は一瞬たじろいだ。
長らくLeeとしての振る舞いを忘れていた時に同じ震源地から揺り動かされた。なまずが俺の目をロックしている。
「玲!ああ、ここにいたの?あれ?多胡さん!」
人は五感で生きてる。視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚。そのうち情報量を多く得られる器官は視覚と聴覚だという。
「ああ、椿くんか」
「すごいですね!俺の声覚えていたんですね!嬉しいや」
俺の目がロックされていることを理解している。
この時、最も心配していたのは暁子や君子とめぐちゃんが似ていることを亜種白路に気づかれないことだった。
俺はロックされた目と塞がれた耳から神経を抜くように多胡開望に徹した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。