第24話 それぞれの昔

色の選定、名前の選定、公職・私職・収入源の申請、それからデートの約束に、決起集会での顔合わせ。大学生としての私職に集中していると公職が疎かになる。


「もう、デートとかも公職でいいじゃん。だってこれ結局仕事だもん」

セオと群青があたしを冷ややかに見つめる。帝都は笑っているけれど、基実くんは笑えない表情を見透かされないようにスマホをぽちぽちし始める。こいつ逃げ方うまくなったなとあたしは久しぶりに基実くんに舌打ちをした。


恩賜芍薬を支える三観蔵と資清、それから左吾の中桐さんは蝦界として職務を開始している。来年の1月までは移行期間だからとそれぞれが練習のつもりで過ごしているけれど、彼らはすでに経験もあるから追い込みは亜種白路たちにとって恐ろしいものだった。

この世代は帝冠名という名前を使っている。


あたしたちはまだ一般識別番号がから元老院号に昇格しただけであって名前という区分にはならない。

烏鷺棋の使い方に関しては元老院号が決定権を持っているためにあたしは解体することを決めた。

神殿幕の御簾の新調を思いついたとき、烏鷺棋の役目は終わったと判断できたからだ。


セオは基実くんに係る部分があって、群青は帝都に係る部分がある。

鼻の効くトレジャーハンターたちは海を渡って神殿に土足で踏み込み始めていた。どうやったらそこまで調べ上げられるのかあたしには不思議で仕方なかった。


教育儀礼のこともそうだし、とにかくエネルギッシュな女性というのは万国共通にいるものだなあと群青の背中を見ながら地球を一周した気分でそんなことを思っていた。


群青の愛情表現は日増しに強くなっている。なんだか不思議な気分だった。

最初の頃は帝都と群青があまりにもそっくりであたしはすごく怖かった。帝都と違って群青のまわりにはイナゴもカマキリも蚊も外来種もいた。それはそれは多種多様な虫が群がっていたから群青に会うことを避けていた時期もあった。


セオとは良好な関係を継続できていた。途中いつものように亜種白路の邪魔は入ったけれど、セオとあたしの血脈は近しいから似ているところも多くてあたしの扱いが群青よりも上手だったこともよかったのだと思う。基実くんと似ているとことも多い。頭がいいところとか、帝都や群青みたいに弾けきれないところとか。


群青はあたしが英語名を使用して元老院号を使いはじめてから自分も英語名で活動をしたいと言うようになった。

セオはそれをルール違反じゃないかという色を織り交ぜて目で訴えていることがあたしには感じられたけど、あたしは見なかったことにしようと心に決めた。


群青は Chersea Sandalfounとした。

セオは Lustrev Pentagolとした。


親に名付けてもらった名前があたしたちの家では一般識別番号と呼ばれる。この先あたしたちは帝冠名をもらって、そのあとはもしかしたら審理冠人の名前をももらうかもしれない。そんな習慣にもあたしは少しずつ慣れる努力をしている。


もとはといえば何も知らなかった。知らぬが仏とはよく言うが、人質として渡されたのに養父母はそのことを教えてもらえなかったから、あたしもまた自分が何者かを知る由もなかった。


接触障害がDNAに由来していることもわからなかったから、あたしは人間関係でひどく悩んだ。

時々スカーニーがふらっと出掛けてはプチトリアノンのような小さな別荘にひとり引きこもる話を聞くと血は争えないと感じる。


太陽系の外を知ったあたしを見たら養父母はどう思うだろうか。

「めぐちゃん立派になったね」と言ってくれるだろうか。


もうすぐ養父の命日がやってくる。一般識別番号としてのあたしは今もこうして普通に暮らしている、帝都や基実くんと過ごした中学時代と同様に。









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