第20話 肖像画の落日

立派な金縁で描かれたスカーニーの肖像画は落日した。

度重なる罪は違法行為という意味であればまだ救われたものの、サイクルの逆流をも許可していたのだから言葉を失う。世界中でスカーニーを裁ける人間はいない。その罪は誰もが糾弾してはくれない。


偉くなることは嫌なことばかりです。見上げてうらやましいと思うのは、あなたが自由で幸せな証拠です。


捜永はひとりで涙を流すことがある。誰にも見られていないと思っても、間の悪いめぐみはだいたい捜永の涙の場面に遭遇してしまう。間が悪い、本当に。


「捜永はどうして結婚しないの?そんなにかっこいいのに」

笑って誤魔化そうとしても、めぐみはこういう時だけ目をまっすぐ見つめてくる。

本音を言わないとヘソを曲げてしまうから、誰もが観念して本音を言ってしまう。

「カッコ良すぎるかだな」

めぐみはしばらく見つめて納得したらしい。なぜ納得したのか、今度は捜永が気になってきてしまう。

「捜永は外国人女性は嫌い?」

「ん?」

話が聞きたくて疑問符で返す。

「あたし、セオやスチュワートと出会って楽になったの。狭い範囲で得意な言語ばかり使っていて、その先まで考えて話して、すごい疲れてた。言葉の先に何があるかって想像するのは簡単。だからこそいろんな選択肢を追わなきゃいけなくて、、、」

「日本語嫌いって言ってたものね」

「うん。英語ってね、丁寧なの。これは参考書の受け売りなんだけど、関係者以外立ち入り禁止って言われると誰が関係者で、誰が関係者じゃないの?ってこちらが考えなければいけないでしょう?でも英語だとStaff only、スタッフの人以外は関係者じゃないですよってこちらが考えなくても先に伝えてくれるの」

捜永はスカーニーのことを思い出していた。言葉の端々に何かを感じ取ってあげようと必死だった自分がいつも隣にいたことを認めながら。

「あたし、Seneted-Xiaoって名乗りたくないの。3つの家に新しい冠が苗字として配られたでしょう?あたし、ティアラなんかちっとも嬉しくない」

スカーニーと初めて会った時、ずっとこちらを見ていた眼差しとめぐみの眼差しは似ている。もしもスカーニーも「関係者以外立ち入り禁止」でななく「Staff only」だったら、、、、

「ねえ、捜永、ゆっくり考えていいの。嫌なら辞めてもいいの。でもね、もちろんこの先も続けてくれても大歓迎だよ。自分がどうしたいかだからね?あなたの心をあなたがあなたの言葉で汲み取ってあげてね」


結局肖像画とSenested Xiaoという名前は廃止されることになった。

そしてMjustice-Law家始まって以来の、元老院と連邦金融、烏鷺棋兼務者のために新しい名前が用意されることになった。


Lawem Daviwood


正面の肖像画は廃止され、後ろ姿の自画像が採用されることになった。

いくつもの役割を担うその背中は一言では語れないものの、香りたつ香木の香りのようにたったひとつであることがわかる。


抽象的な正義から具体的な法律へ、正体不明の水から地に根を張った木へ。


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