第19話 writerとauthor

ヨハネス・エリヤ=栗生は亜種白路のシールドだった。writerという名前でのシールド活動はめぐみに先行して活躍し、多くの亜種白路の命を守ったと同時に三閉免疫症候群の命を奪い世界に混沌をばら撒くことになった。

ヨハネス・エリヤ=栗生は天村君子と多胡芳実の息子であるから、亜種白路の直径ではない。ジェラルド麻野や山蘇野智柚のほうが亜種白路内でのステータスは高かった。

「弁護士とクライアントという関係性としてはこんなにバランスの取れた関係はないでしょうねえ」

亜種白路はヨハネス・エリヤ=栗生を担保として天村君子や多胡芳実に多額の出資をした。

ーーこれでMjustice-law家の鍵は亜種白路のものだ。


2021年、想定外のことが起きた。

めぐみが法学部に入学を決めたのだ。

ヨハネス・エリヤ=栗生は法学部をすでに卒業している。さざなみのように、静かではあったが不穏な空気が流れ始めた。

「大丈夫よ」

「そうよね、ヨハネスさんは既卒、弁護士資格も」

「持ってないわよ、、持っているのは行政書士の資格だけ」

「司法書士の資格くらいはあるって聞いたわよ」

沈黙がその場の空気をさらに重く不穏にさせた。


不安な予想は的中した。めぐみは誰からも教わらず、ただテキストを読むだけでだいたいのことは理解し、教科書に後述して指定されている課題を瞬時にみつけて、つどつど解決していった。


めぐみの才能を見つけて喜んだのはスカーニーだった。Mjustice-Law家が創設されて以来、混沌を秩序に成分化することが家の課題だったからだ。めぐみの祖父である朱雀雪芸もスマートだとは言われていたもののオルレアンとして課題を解決するには至らなかった。


「向こうのシールドがwriterなら、めぐはauthorだ」

セオが教えてくれたことだった。めぐみはそれまでは自分の役割を次代の烏鷺棋のみだと思っていたから大変驚いていた。そしてそんなふうに自分を褒めてくれたセオが大好きになった。

「セオといっぱい英語でお話しできるようになりたいけれど、セオにばかり教えてもらうのは嫌だ」

恥ずかしがり屋な性分から、めぐみはスカーニーにお願いをした。

「全くあたしのことを知らない英語の先生に英語を習いたいんだけど」

娘のおねだりは年に一回あるかないか、スカーニーは二つ返事で手配した。その中に亜種白路が混じっており、混乱の最中、恩赦によって釈放されたミーガン・ラクーンがスチュワートに恋をしたことにより9月の混乱が発生したというのが大まかな事の次第であった。


2022年writerが自殺した。向こうのシールドが消滅していた事実は彼らの暴挙を加速させた。

めぐみがセオやスチュワート以外に英語を教えてほしいと言っていると情報を得た亜種白路は外国籍のものたちに指示を出した。

「めぐみに英語を習得させないようにしろ。授業中に、あなたの英語は通じないというような態度をとるだけでいいんだ」


実際2021年当時の成績表を比べてもヨハネス・エリヤ=栗生が勝っていたのは英語だけだった。

最後の砦は英語だ。

麻野道信は自殺したシールドの役目をするために自らの暗殺を創作し、writerになった。


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