第15話 カナリヤ色のロングヘアー

朱雀雪芸に恋をしたカナリヤ色のロングヘアーの話には後日談がある。

最初に手を出したのは雪芸さんよ!!と最後まで主張を変えられなかったカナリヤの思想的事情は先般少しだけお話ししたが、それとは別にいわゆる「ガチ恋」の色合いも強かったことは朱雀雪芸の思いやりによりこの2023年まで鍵がかけられた、いわば秘密の花園の領域であった。

これを公然の秘密だと言う人もいる、これを忖度だと言う人もいる。


「カナリヤさんは思想者としては素晴らしかったが恋愛に関しては一線を超えてしまった」

というような趣旨の発言をされたことがあった。

たしか30年ほど前だったと思う。



鍵が盗まれたのは9月の初旬、腰にぶら下げていたのにいつの間にかなくなっていた。同じ状態で暮らし続けていたのに、なぜこのタイミングだったのか?考えあぐねて迷路に迷い込んだ。鏡の中を行ったり来たりしては、ここがどこなのかわからなくなり、座り込んだ。抗議活動のひとつだと自嘲しても鍵は戻ってはこなかった。

けれど、犯人はすぐに捕まった。

「練習だったんですよ、本番のための」

カナリヤのモットーを彼女は弁明の言葉として用いた。

「本番って何の?」

セオが穏やかに聞く。スチュワートの鍵だと思っていたことは誰もが暗黙の了解として簡単に理解できたからだ。

「ヤってやりたかったんです。Fワードを女性に使わせる気ですか?」

基実がたまらずそいつを殴った。同じやり方に我慢がならなかったのだ。


「基実って女も殴れるの?」

別会場から事件を俯瞰して眺めていたスチュワートが帝都に耳打ちして聞く。

「善悪にも男女平等を」

帝都がニヤリと笑う。


カナリヤ色のロングヘアーの写真と見比べるべきは彼自身の若い頃の写真だろう。イヤリングのその耳たぶは東洋人らしい形をしている。

写真の加工技術はすでにアメリカから盗み出していた。


腰にぶら下がった鍵はいまだに返されていない。

スチュワートは自分のなりすましに対して大きな決断を下すことにした。

「烏鷺棋第2シーズンは君たちが主役だから」

どのように振る舞うかの練習である。その日どうヤってやれるかの準備運動だ。

ヘッドピースは雇用の象徴。それを取り合うように経済を動かしているのは誰か?

スチュワートと帝都はその一部始終を俯瞰して見ることができる。表から見えない誰も知らない特別観覧席に入れるのは有名人ではない。

鍵はセキュリティーの問題から雇った象徴を盾として常に隠されている。


「防犯カメラの映像を公開する。君はムービースターではないから」


カナリヤ色のロングヘアーはすでに剃髪をし、準備をしている。解雇処分のその日を。


The shame of their Journey bigins from today under the Mjustice-Law family brightness.



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