第6話 強面肖像画

7月9日、スカーニーの肖像画が完成した。

「肖像画ってなんか嫌だね」

一応公式のセレモニーだからと除幕式にも参加したスカーニーだったが、帰宅した頃には焦点が合わないほど疲れ切っていた。


衣子さんのこと、IOSのこと、亜種白路のこと、百舌鳥柄のこと、三閉免疫のこと、時空旅人からの謁見、イレブンスの治療薬の承認と看守の交代祝福の司式、SWLカンファレンスの解体と廃棄処分申請・承認・施行と、IOSへの引き渡し。


「だから俺はこの仕事嫌なんだよ」

寝言でスカーニーはよくそう呟く。


肖像画の完成に伴い、元老院の解体も申請・承認された。

次代が烏鷺棋の第二シーズンに入ることは当代がMjustice-Law家として始動することを意味し、同時に元老院の解体が行われる。


兎にも角にも慌ただしい一週間がはじまったというわけだ。

「元老院解体されたら俺たちどうなるの?」

「お前と基実とめぐちゃん以外は時空旅人になる」

「え?!廃棄処分なの!!???」

「詳しくは知らないけど、時空旅人になることは確か。それからお前と基実は、、、基実はすでにE称号を持っているから、帝都はO称号を授与される。それから叙勲もある。基実はH勲章、帝都はG勲章」

「それもらって何になるの?」

めぐちゃんはいらないところでいらないことを疑問として純粋に聞いてくるから面倒臭い。空気読めやと言いたいが何も知らないのだからそれも酷な話なのでイラつきをグッと堪える。

「称号と勲章が与えられるとそこに派閥が生まれるんだ」

「それダメじゃん!派閥なんていいことひとつもないよ!?」

心の中で、”うるせえ黙ってろ、とりあえず聞け”と呟いてから話を続ける。

「烏鷺棋の一環だから別に仲違いするようなものじゃないんだよ。亜種白路や百舌鳥柄に派閥持たれるよりはずっと世界が安定するから」

「なるほどね」

「IOSを再開させたから、基実は左吾、帝都は右炉と呼ばれると思う。めぐちゃんは央観」

「別の名前でもいいの?」

息を吸って、”面倒臭えなあ、聞けや”と息を吐く。文句じゃない、これは深呼吸だ。

「たとえば?」

イラついてることはわかってる。俺だって昨日からスカーニーに帯同して疲れてるんだ。

「いや、なんでもない、ごめんなさい」

わかればいいんだよ、お嬢さん、と微笑む。


7月10日午前4時、明日もまだまだやることがある。

ガキのお守りなんて死ぬまでやるわけがないと思っていたのは20年前。ふとしたことからめぐちゃんの存在を知り、スカーニーが俺を一本釣りしてくれた。

「あたし、バロウのその怖い顔大好き!嘘つかなそうなところがかっこいい!あたしは大好き!」

初対面でそう言われた俺の気持ちをめぐちゃんはあまり理解していないと思う。彼女にとってはごく普通の、そう、普通であればあざとい発言だからだ。

「俺でいいんですか?子守りの経験とか、そういうの全然ないし、どっちかっていうと子ども嫌いなんですよ、、、うまくやれるかな、、、」

「他の家の子は知らないけど、うちの娘はすごく気にいると思うよ」

さすが父親だ、娘のことをよくわかっている。






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