第5話 誰もが通る道

「お父さん!!!どうして早く言ってくれなかったの!!!!」

めぐがついに謎を解き明かしてスカーニーに食ってかかっている。俺はなんだかボクシングの試合のゴングが鳴ったような気分でその様子をニヤニヤと見つめていた。

「いや、だってそれが決まりだから。お父さんだってそうやって乗り越えてきたんだよ」

めぐが机にあるコップを床に叩きつける。お父さんと呼ばれて嬉しいスカーニーはニヤニヤしているけれど娘の剣幕に少し引いているようで顔が引き攣っている。こんなスカーニーを見るのははじめてで俺はめぐにバレないように忍び笑いをした。

「おかしいじゃないの!元老院って言われたらそれがそうだと思うじゃないのよ!!何よ!みんな知ってたの?」

「いや!!みんなは知らないよ!お父さんとめぐちゃんと血統だけしか教えてもらえないんだよ!」

このぎりぎりのところでみんなを守ってくれるのがスカーニーの優しいところだ。

めぐは少し冷静になったのかスカーニーの前に座った。

Mjustice-Law家と元老院は違う。

元老院は次代のMjustice-Law家が審美眼を養うために与えられるシステムで、とりわけ当代において最大の難問の当事者が組み込まれることが通例らしい。当代の最大の難問を次代が解き明かさなければならないのだから、Mjustice-Law家の当主というのは並大抵の精神力ではやっていけないと俺は驚かされた。

だから山蘇野正良さんも、エルザ・ヨウもロベルトも、そして卓と名付けられた開望と天村君子の息子も山蘇野正良さんの息子として組み込まれたのだ。衣子さんは10年も前に亡くなっていた。そこに存在していたのは白い煙だったことを誰も語ろうとしなかったのはこの元老院システムのためだったことが最近わかった。

Mjustice-Law家はそれ以外にも烏鷺棋という取り決めがある。

白と黒のコマをどう動かしたらどうなるかっていう大規模な盤ゲームでしょ?と帝都がこの間うっかり口をすべらせて言った時は、バロウにぶん殴られそうになっていたけれどあの表現が一番適切だと俺も思う。

烏鷺棋は正式な表現ではサンプリングになる。時代や慣習、文化の変化に対応するための試験を行い、その結果を記録し次代につなぐことが目的だという。それにしても金持ちがやることはスケールが違う。

俺みたいな小さな物差しでは思いつかないようなことを実際何百年も実行しているのだから。

「サンプリングが終わったらどうなるの?」

「そんなもん廃棄処分だよ」

恵とスカーニーが同じ表情で同じ抑揚で当たり前のように応える。親子だなあと血の気がひいた。





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