第3話 primary3-1
「倉沢さーん!今日って体調どんな感じ?」
書庫に飛び込んで来た二人目の育休から復帰したばかりの時短勤務のママさん司書、
「大丈夫ですよ、どうしました?」
ここ最近持ち帰り仕事が多くて、寝不足気味なのだが動けないことはない。
現在近隣の小学校でインフルエンザが大流行していて、しっかり貰って帰って来た我が子の看病のために休みを取っているベテラン司書磯上の分も、裏方仕事をこなさなくてはならないのだ。
普段、
「それが、返却本が山になってて・・・」
一番のベテラン不在に加えて一気に戻って来た返却本が放置のまま。
ただでさえ人手不足なのに、その上次々と時短勤務のスタッフが家族の看病で戦線離脱していっているのだ。
この調子だと利用者からクレームが飛び出すのは時間の問題である。
体調が良くない時は、
「あらら、私、出ますよ。
こんな時くらいみんなの役に立たなくては。
トランスタイプのオメガである紗子は、ノーマルタイプのオメガと比べて、
そんな中、勤務は紗子の体調優先で構わない、と言ってくれた唯一の就業先がここ、図書館だった。
宝来市は、町を上げてオメガ保護を訴えている地域ではあるが、中でもメディカルセンターとオメガ
「ほんとに!?助かる!幼児向けコーナーとか危なくなさそうなところだけでいいから!」
ごめんねぇ、と遠山が困り顔で笑った。
「でも、一番人気の小説コーナー放置は不味いですよね?」
近隣住民だけでなく、隣町からも本を求めて人が来るほどの蔵書量を誇る図書館は、人気本の蔵書数が多いことでも知られている。
それを求めてやって来た利用者が、書架にない本を探してスタッフに声を掛けてきたら、さらに手が取られることになるので、出来る限り返却本はすみやかに書架に戻したいところだ。
「いやいやいや、そこはいいよ。なんかあったら困るから、そっちは私が行く!出来ることだけ助けて貰えたら十分だから。ほんとにごめんねー。さっきパートさんも学校から連絡来て早退しちゃって・・・」
下もてんやわんやなのよ、と遠山が肩をすくめる。
そう言えば、学級閉鎖のクラスがいくつか出ていると休憩室で耳にした。
「ほんとに流行ってるんですね、インフルエンザ」
「そのうちうちの子の保育園でも大流行するんじゃないかって、もう戦々恐々よ・・・」
「上のお子さんがかかったら、大体下のお子さん貰っちゃいますもんね」
「そうなのよー・・・ほんと困るわ。うちなんてまだ旦那がリモートいけるからいいけど・・・」
「遠山さんのご主人もメディカルセンターでお勤めでしたよね?」
「ああ、うん。そうなの。ゆみちゃんとこと一緒ね。この辺りに住んでる人は、大抵が西園寺系列の会社員か公務員だからねー」
西園寺によって作られて守られているこの地方都市は、図書館の数キロ圏内に、西園寺の関連企業が3つも存在している。
地元で相手を探そうと思うと、そのうちのどこかにお勤めの異性と知り合うことになるのだ。
過疎化を食い止めようと、西園寺グループはグループ間交流会という名の若手社員の懇親会を定期的に行って、ニューファミリーを土地に根付かせようと必死なのだ。
西園寺グループが超優良企業であることに違いは無いので、上手く社内恋愛にこぎつけることが出来れば勝ち組なのだろう。
行政も同じような取り組みを行っているおかげで、減っていく一方だった小学校のクラスはここ数年昔のように増えて来てはいるらしいが、どちらにしても紗子には縁の無い話である。
「上がり時間までに出来る限り戻しちゃうから、残りやれるところまでお願いできるかな?読み聞かせ教室は、視察のあとで館長がやってくれるらしいから」
いつもはスタッフが持ち回りで子供向けの絵本の読み聞かせ教室をしているのだが、この状況なのでそこまで手が回らず、普段は事務室に籠っている館長自ら読み手役を買って出てくれたらしい。
「視察・・・・・・ああ、市議の視察って今日でしたっけ?」
行政と西園寺の共同経営で運営されている図書館には、イベントホールが設置されており、つい先日音響設備の入れ替え工事を行ったので、地元の市議が見学に訪れる予定になっていた。
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