終章 恋と言う名の死因
世界を脅かしたアベンジャーズという、ある一人の少女の復讐劇は終わりを告げた。誰よりも、世界よりも大切な者が止めるという形という、少女が最も望まない形で終結した。
この組織が世界に齎した甚大な被害は、決して軽いと言えるモノでは無かった、少なくても数千万の死者、そして発展成功国と失敗国が行なった非人道的行為の暴露。庶民はテロによって失われた命に哀悼の意を示し、テロリスト達を憎み。そして国家は自らの汚点を全てさらけ出された事により、国民からの支持を失った事とテロによって受けた構造物の被害に遺憾の意を示し、そしてテロリストを憎み。まぁ結局の所、ほぼ全人類がテロリストを恨んでいるという訳だが。
そのリーダーたるツクロ兼モルは、私が世界をもう一度脅し…っ説得して身柄を確保し、その存在を抹消し、リーダーはミクロレベルに分解されたと、決して嘘でもない情報を発表させた訳だが、まぁそうでもしないと私が保有する事は許されない代物だったわけだ。
これは、その後の顛末を私なりに纏めたモノとなる、纏めたからと言って誰かに提出する訳でも、見せるつもりは無いのだが、私なりのケジメにしようとそう思う。
まず私達が務めていた、民間テロ対策組織は事実上の解体、まぁ国が言えない様な事をされた人間と、表には出せない人間にある程度の自由を与える為の場所だった。
コールドスリープから唯一蘇生された人間、100年以上前に産まれた、キャップ。
全世界を変える事の出来る頭脳を持った人間、私という名の天才、明智。
この二名が表に出す事の出来ない人間。私は表に出すというよりも、世界から隠しておきたかった、そういう意図があっただけだろう、くだらない。
そして、デザインベイビーとして設計され、私が作り上げた数々の技術や研究結果を混ぜ合わせ成功した執念の産物、マリーという人類の限界点。
私の遺伝子組み換え、否…改造とも言うべき技術を活かして人間に新たな可能性を見出そうとした、超能力はあるという悪魔の証明をし作り出した、サチアとミライと言う怪物。
この三名が国の見栄によって人間扱いされなくなった人間、といってもマリーは私自ら助けたから戸籍や家は用意して貰えたが、サチアとミライは最後まで国は人と認めなかったという訳だ、以上五名。前者二名生存、後者三名が死亡という結果になった。
私達は別に誰も死ななくて済んだ筈で、そういう道は可能性が無い訳がなかった。けれど三人は死んだ。私達と彼女らの違いは何だろうかと考え抱いた、答えは一つ。
それは『恋』ではなかろうか?自分でも何を言っている?という自覚はある。
キャップは大切な友人を手に入れた、しかしその友情を切り捨てて、過去に受けた思いを呑み、唯一無二の友人を自らの手で葬り去った。得た友愛を自らの手で葬り去った。
私は愛を手放した記憶は無い、私が孤独にならぬように必死に繋ぎとめようとした、私の命を捨ててでも繋ぎとめようとした、けれどそれは叶わなかった。私は悦愛を失った。
私達の思想はどうあれ、愛で動いていたから、生き残った。生き残らされてしまった。
マリーは、私というたった一人の愛する人と、たった一人恋したサチアを守る為に、自らの命を差し出すに至った、愛は決して手放さずに。サチアへの恋に突き動かされたのだ。
サチアは、自身の妹守る為、そして恋したマリーが惚れた自分を貫き通す為に、自らの命を犠牲にした、自分が誰かわからなくなっても、それでも彼女は自分を貫き通した、彼女の恋が見せる夢の景色は、誰の記憶にも残らない夢ではあるが、あの夢は、人の少女の恋の結末と言う名の夢はとても美しい物であったのだと、私は拍手を送る。
ミライは、サチアとの唯一との家族の約束を守る為に、自身がずっと求めていたモノを持つツクロという女性と相思相愛であったが為恋をしてしまった、それ故に自ら命を絶った。誰も望まないと知ってなお、彼はその道を歩む事を決めた。一番大切な恩人という名の家族との約束を守り、そして生きて欲しいと恋した女性を救う為に未来を絶った。
自ら恋した人の為と言えば聞こえはいいかもしれないが、恋した人以外を想ってはいたが度外視したのが彼女らの選択だ。それが私の考える残った者と散った者の差だ、後悔など欠片も無かったのだろう、誰かの為に死ねるとはなんと幸福な事なのかと、想い抱きながら死んでいったに違いない、彼らの死因は恋だ、恋に溺れたのだ。
死んだ者達を悼んでは話も進まない、生き残った者達の話をしよう。といっても潰れた会社等とっとと捨てて私の個人資産で作った形だけの会社に皆務めている訳だが、私の事はどうでもいいか、まずはキャップ、彼は自分探しの旅に出た。仕事をする為に1ヶ月に1度は帰ってくるので旅と言っていいのかは不明だが、まぁ旅に出ている。自分の意志を持たない彼が何か掴む日はきっと来る、それがもうすぐかは知らないがね。
レニ君はサチアの望み通り普通の小学生となった、少しばかり会社の指導法が悪かったのか偏った知識になっているが、それでも全国でも有数の頭脳である事には変わりないだろう、彼女らという支えが失った事に対しても理解を示し、そしてミライの望み通り幸せな日々を送っている、新たな支えと共に、支えの方が抜けている気もするが…、まぁいい。
そして従業員はもう一人、これはミライの遺産か、それとも世界の負の遺産か、何と形容すればいいか少し悩むが……まぁ誰も知らない、この世に生を受けたばかりの少女だ。
「明智所長、ご依頼の品の進行状況は順調でしょうか?」
ツギハギだらけ少女が、私に問いかける。この通りミライが恋した、たった一人の世界一の大罪人はその特異性を喪失したが普通に生きている、と言うよりは生かされた。
「あぁ、進んでいるとも、そちらこそ今日もお墓参りかい?行くのは勝手だが行き過ぎると帰って怪しまれるぞ?幾ら私が存在を抹……、コホン…、とにかく控えるように」
「わかっています、けれど毎日通えば来来来世くらいで会える気がするんです、きっと…」
「そうかい、まぁ来来来世まで行けば、すれ違う位の事はできるだろう、頑張りたまえよ」
ツクロという少女は生きている、ミライの望んだ世界の通りに。そして彼女の言う事を私は馬鹿に出来ない。理由は単純だ。すっかりサチアに話すのを忘れていたが。
私は、裸のおうさまでは無いが、それでも幸せな王子だから、きっと結末は決まっている、その結末の感想は抱く人次第だが、まぁここは今いる人に感想を求めよう。
「行く前に一つ聞きたいんだが、言いかい?なぁに話はすぐ終わるさ」
もう既にこの探偵事務所を後にしようと、備え物を持ったツクロに私は声をかけた。
「なんでしょうか?レニちゃんの学校もまだですし、技術顧問もまだ帰っては来ませんが、仕事の依頼でしたら、労働者の給料確認ですか?」
「そんな事は君にやって貰わなくても、その気さえあれば自分でやるさ」
「それをやらないから私がやっている訳ですが、どうしますか?解雇します?」
「それはやめてくれ、私のただでさえ少ない自由時間が無くなってしまうよぉ…、なぁそれはどうでもいいんだ、本題に入ろう君は幸せな王子はハッピーエンドだと思うかい?」
「幸せな王子ですか?いきなりですね、まぁあれは誰に焦点を当てるかで、変わる物語だと思いますよ、でも私の視点で語るのであれば、ビターエンドですね」
意外だ、ツクロと私の読書感想が合うとは、恐らく金輪際起こらない奇跡だろう。
「天使は全て見ていました、ツバメと王子が世界に尽くす姿を、そしてその加護を受けた人達も気づけた筈なんです、なのにツバメの死体と、みすぼらしくなった王子の像は救った人達が助ける事も無く、片付けられる。天使以外にも知る事が出来たはずなのに、天使以外は誰も知ろうとしなかった、私の大好きな人と同じ末路を辿った王子達は幸せかもしれませんが、見せられた方としてはビターな気持ち以外の何物も得る事はできない、そういう物語だと、思いますよ?」
王子とツバメの現状を誰も知ろうとしなかった、民衆を天使としては全員に気づいて欲しかったのかもしれない、それがツクロの意見。
「まぁ私も、君と大体同じ意見だよ、けれど君とは違う事を考えた、それより大好きな人って私の事かい?」わくわくと胸を躍らせてツクロに問う。
「違いますね、明智さんのイメージは薄情なスケベから、意外と純情なスケベに変わった以外、初対面以来イメージの更新は無いですね、それでどこが私と違うんですか?」
意外と純情ね、私がマリーとサチアの写真を大事に飾っているからだろうか?まぁ彼女達程、私を理解しようとせず愛してくれた人は居なかったから、その記念でもあるのだが。「まぁ簡単な事だよ、最後に王子達を導いた天使は、王子達が助けれたと思っていた、手を差し伸べた人間が死んで天使になったと、私は解釈している。どの道ビターに変わりはないけれどね、そう思う事で幾分か私は生きていく糧にできる、いつか私を待つ者は私が大好きな人であってくれるという根拠のない願いだけれどね」
きっとそれがマリーとサチア、そして先生である事を夢見て私は世界に公平をバラまく。
きっと皆ここに居る皆同じ思いで生きている、いつか愛した人達に恋した人達に先立たれた人間しか残っていないのだから、そうでもしなければ生きていけないのだ。
けれど満足そうに死んでいった彼女らに、私は何一つ文句を言わない。
だってそういう所を含めて我々は先に逝った彼女らを愛し、恋していたのだから。
恋が生む自殺 鈴川 掌 @suzunone13
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