本屋のお仕事

仁科佐和子

第1話 本屋『あやかし堂』

 本屋だからって本を売るばかりが脳じゃない。水道屋は水道を売ってるわけじゃないだろ?


 僕たちの仕事は本の躾を行う、いわゆるブリーダーだ。


 本の躾って何をするんだって? ものを知らない子どもには躾が必用だろ? 本も同じさ。


 例えば人を呪う本とか、処分しても処分しても戻ってくる本なんかあるだろ?

 いや『そんなものない』なんて一刀両断したら話が続かないからね!


 そういうやんちゃな本がこの店には集まってくるから。そういう本たちをきちんと本棚に入れて、愛情を込めて接してやるんだ。

 間違っても床なんかに置いちゃいけない。扱いを間違えると呪われるからね、気をつけろよ?


 ちゃんとホコリを払って手にとって読んでやるだけで、本ってのは落ち着くんだ。


 ここにある本はそうやって躾をして、新しい持ち主にお迎えしてもらうのを待っているのさ。


 おっ、さっそく新しい本がやってきたみたいだ。

 おい! いきなり手を出しちゃだめだ!


 ほら危なかった。噛みつかれるとこだった。長旅で気が立ってるんだから、いきなり梱包を解くような手荒な真似をしちゃダメだよ。


 えっ? びっくりしたって? それはこの本だって同じだよ。いきなりパーソナルスペースに踏み込まれたら、人間だって驚くだろう?


 今日入荷したのは本のミミックちゃんだね。はじめまして。本に擬態して近づいた人間に襲いかかる本なんだ。


 そんなの本じゃないって? なんてことを言うんだい? 個性を否定するようなことを言っちゃだめだよ、ミミックちゃんが傷つくだろう!?


 本も人間の子どもと同じさ。いいところを見つけて褒めて伸ばすんだ。心を通わせることで荒ぶる気持ちに寄り添ってやるのも大事だね。

 時間をかけて丁寧に育ててやることが大事なんだよ。


 ここ『本屋あやかし堂』は、訳あり書を扱う店だから。覚えることは多いけど、やりがいのある仕事だよ。

 早く馴染んで一人前の怪書ブリーダーになってね!



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本屋のお仕事 仁科佐和子 @sawako247

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