理想の家族

「おかえりなさい佐山さん」

「みんなで台所に立って料理をしているんだね。まるで家族みたいだね」

「ですよね~すごく楽しいですよ」

奏浜さんが椅子から立ち上がり佐山さんに席を譲った。

「よ~しビールビール~♪︎」

大家さんはルンルン弾んで冷蔵庫からビールを取り出しテーブルに座った。

「佐山さんの席でしょ!」

大家さんはふふん、と誇らしげに笑って缶ビールに口をつける。

「いいよいいよ、荷物部屋に置いてくるからね」

と言って佐山さんは階段を上がって行く。

「佐山さんおつかれ~っす」

「ただいま六倉くん」

ジム帰りでシャワーを浴びていた六倉さんがシャワールームから出てきた。

「ぉ、すげーいい匂いじゃん」

首にタオルをかけ頭を拭いている。

「六倉さんはカツ丼でしたよね。もう出来上がりますよ」

「おぅ、サンキュ~」

六倉さんはキッチンに背を向ける形で大家さんの向かい合わせにテーブルに着いた。

「嵐矢と湿田ちゃんが一緒に料理してんのは珍しいな。カップルみてぇだな」

「ぅへ!」

俺の隣で奇声を上げ飛び上がった恵衣さん。

「ですよね~、私も2人の背中見ながら思ってましたよ~」

「この際あんたら付き合っちゃえば?」

奏浜さんも大家さんも、

みんなしてからかってるつもりなんだろうか

そんなにお似合いに見えますかねぇ…。

「……」

無言で恵衣さんを横目で見る。

「くぁwせdrftgyふじこlp」

顔を真っ赤にして頬っぺ膨らませてうつ向いてプルプル震えている恵衣さん…、それどういう感情なんだ?

「…でもアイドルって恋愛禁止なイメージありますよね?」

それとなく会話の流れを変えてみる。

「あ~、交際がバレて辞めてったアイドルの話ありましたね~」

「バレてないだけでヤることやってんでしょ?どうなのメイちゃん」

”ヤる”って表現がまた直球な大家さん。

「まだ私…中途半端なんで、恋愛してる余裕なんてないですよぉ…」

「恋愛するのは良いってことだな?」

「ぁ、それより。明後日のメイちゃんのライブ、のぼるも観に行くでしょ?」

「湿田ちゃんのライブかぁ、面白そうじゃん!」

恋愛の話から逸れてひとまず安心した様子の恵衣さんは小さくため息をついた。


「おや、盛り上がっているね」

佐山さんがキッチンに入ってきた。

「明後日の湿田ちゃんのライブに皆で観に行こうって話してたんすよ。佐山さんもどうっすか?」

「私はね…、あけみの許可が必要でね…」

「ぁ、そっか…」

「せっかくプロポーズも成功して、あけみさんも安心してるのに、アイドルのステージ観に行くって殺されんじゃない?」

スナックの従業員にもやきもち妬くぐらいだからね。

「それは困りますね…。私は今回は遠慮するよ、明後日の話なら"急になんだ!"って機嫌悪くなるだろうからね…」

「そん時はまた私らがあけみさんに話するわ」

「まぁまぁ、無理言っちゃいけませんよぉ」


などと話している間にカツ丼が完成した。

玉ねぎを醤油だしで煮込んだフライパンに、揚げ直したトンカツを3cm幅でざく切りにして卵でとじる。

一人前の小さな鍋は無いので、フライパンで一気に4人分を煮込んで完成だ。

あとはどんぶりに盛ったご飯に掛けるだけ。

恵衣さんが盛ったご飯を受け取り、一人前カツを掬いご飯に掛ける。

「はい、大家さん。出来ましたよ」

「おっ、サンキュ!お~めっちゃ旨そうじゃん」

「恵衣さんも座って良いっすよ」

恵衣さんの分のカツ丼も盛り終わり、恵衣さんを席に座らせる。

「ぁ、うん。ありがと」

奏浜さんは食器棚から人数分のグラスを取り出し、ウーロン茶を注いでいく。

六倉さん、奏浜さんと続けてカツ丼を盛っていく。

「佐山さんビールで良い?」

「ぁ、ありがとうございます」

大家さんが佐山さんのグラスにビールを注ぐ。

俺と佐山さんは天丼だ。

天丼はただスーパーで買ってきた野菜のかき揚げとアジフライを揚げ直して、ウスターソースを掛けただけのシンプルなやつ。

「はいどうぞ、佐山さん」

「ありがとう」

これで全員分のどんぶりが盛り終わった。

俺と六倉さんは立ったまま食べることになる。


「「いただきまぁす!」」


生い立ちや年齢も性格も違う人たちなのに、まるで本当の家族の食卓みたい。

ほっこり温かいコーポ•ペルーシュのキッチンが私はとっても大好き。
















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うそつきワンルーム 悠山 優 @keiponi

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