飾らないアイドル
「そういえば恵衣さん。チャーハンのお皿はどうしました?シンクには置いてなかったけど、また部屋に忘れてます?」
「なに言ってんのぉ、ちゃんと見てよ。洗って食器棚に戻したって」
食器棚の中段目、確かにチャーハン用の中華皿が5枚重なっている。
珍しいこともあるもんだ…。
「失礼ね。私だって作って貰ったんだから片付けぐらいするわよ」
「まだ何も言ってませんけど」
「目が"なんだ珍しい"って目をしてるじゃん」
「あんたらもだいぶ仲良くなったみたいだね。
買い物行きましょうか、皆でね」
大家さんが珍しい提案をした。
「ぁ、メイちゃんただいまぁ」
「おかえりさやちゃん」
奏浜さんがキッチンに入ってきた。
「さやちゃんも買い物行きましょ!カツ丼食べたくてしょうがないからさぁ」
「カツ丼ですかぁ、いいですねぇ。行きましょ」
奏浜さんも買い物に同行することになった。
下駄箱で各々履き物を用意し外に出る。
「まぁ、作るのはたくろうなんだけどね!」
右足でけんけんしながら左踵をウェッジサンダルにねじ込む大家さん、まだまだ若々しい。
「わかってますよそんなこと…」
俺と奏浜さん、恵衣さんはスニーカーを履いている。
「嵐矢さん本当に料理上手ですもんね!期待してますよ!」
と俺の隣を歩く奏浜さんが上目遣いで顔を覗き込んでくる。
「そぅ…ですか?頑張りますけどね」
俺の後ろに恵衣さんがついて歩く。
俺の来ているパーカーのフードの先っちょ摘まんでいた。
手は繋いだりはしないし、誰かと話している時に割って入ってくるような人ではないのはわかったけど…、恵衣さんがステージでアイドルとして踊っている姿が想像付かないんだよなぁ。
「恵衣さんがステージに立つ時の衣装って他のメンバーと統一されてるんですか?何か個性的なカチューシャ付けるとか」
「衣装はね…。みんな一緒の学生服みたいな衣装だよ。他には頭にピカ☆ュウとかハロー♡ティ付けりしてる子も居るよ?」
「メイちゃんは何か付けてるの?」
「私は…元々衣装とセットになってる紺色のファシネーター付けてる」
「ふぁ、ファシ…なに?」
聞き馴染みの無い単語に戸惑う大家さん。
「ファシネーターは頭に付ける小さな帽子みたいな物ですよ。ロリータ系のファッションに合いそうな花冠やリボンが付いてきてますね」
分かりやすい説明、ありがとう奏浜さん。
そんなこんな話ながら近所のスーパーに到着したけど…。
夕方のこの時間は買い物をするお客さんの数の多いのなんのって…。
4人でスーパーを訪れたは良いが、ゆっくり買い物を楽しむどころか買い物カゴを持って通路を歩く余裕すら無いのだ。
晩御飯のおかずを狙うお母様方の獲物を睨む鋭い目付きと熱気。
「チッ!行くわよたくろう!トンカツだけでもGETするわよ!」
「はい!」
お惣菜コーナーではちょうどチキンカツやトンカツ、天ぷらなどの揚げ物のタイムサービス中だった。
「メイちゃん。私たちは飲み物見に行こう」
「ぁ、うん」
二手に別れて食材の調達をする。
「沢労!そっちのアジフライ6尾お願い!」
「はい!大家さんはトンカツ4枚お願いします!」
大勢のお客さんがごった返すお惣菜コーナーでお客さんの間を割って入りお目当ての物をかっさらって行く。
トンカツ4枚獲ったところでトンカツがちょうど売り切れた。よし!トンカツGET!。
他の客に睨まれたけどそんなこと関係ないわよ。
これも晩ご飯のカツ丼のためよ。
「お?エビ天が1尾110円!?これは買わねば!」
お目当ての物はもう手に入れたが値段に引かれつい手が出てしまう。
大家さんはカツ丼で確定として、他の皆は天丼でも良いかもな。
おっと卵も1パック買っておかないと!
その頃別動隊の奏浜さん湿田さんは。
「2Lのコーラ2本と烏龍茶2本ぐらいで間に合うかな?って…あれ?」
「ん~、白くまか爽どっちが良いかなぁ」
飲み物を選びにきたはずなのに、さやちゃんはアイスコーナーを物色していた。
「も~先に飲み物でしょさやちゃん…」
「アイス食べたくなっちゃって」
てへへ、と笑って舌を出すさやちゃん。
「なぁ、あれ、メイメイじゃね?」
「え!ガチじゃん!隣の子も可愛くね?だれ?」
と近くでこそこそ話している男子学生の会話が聞こえてきた。
ヤバ…、バレてる…逃げなきゃ…。
さやちゃんも男子学生の会話が理解出来たようで、オドオドしている私の様子を見て直ぐに察してくれた。
「行こう」
「ごめんね…」
さやちゃんはすぐ私の手を引いてその場を離れようとしてくれた。
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