心からの笑顔

佐山さんのプロポーズは無事成功。

というか結果はもう皆分かっていたけど…。

晴れてあけみさんの誕生日でもある9月10日に婚姻届を提出しに行く約束をした佐山さんは、終電で帰って来て俺たちの顔を見るなり大泣きして喜んでいた。


そんな佐山さんのプロポーズ大作戦から3日後の昼過ぎ。

沢労は一階の共同キッチンで昼食用の五目チャーハンを作っていた。

「うし!完成。あとは皿に盛って、紅しょうがっと…」

盛り付けが終わり、調理の済んだフライパンやまな板を洗って片付ける。

片付けが終わって自分の部屋で小説を読みながらゆっくり食べる。

休日の昼の過ごし方だ。

キッチンを出て階段を上る。

すると203号室の湿田さんの部屋から賑やかな音楽が漏れ聞こえてくる。

「そういや、湿田さんは昼飯食ったのかな」

別に俺、彼氏でもなんでも無いんだけどさ…。

湿田さんは俺の作った料理を美味しそうに食べてくれるから、ついお節介を焼いてしまう。

湿田さんの部屋のドアをノックする。

片手にはチャーハンを持って。


すると、音楽が止まり、ドアが開いた。

「う~い」

「恵衣さん昼飯食いました?」

"恵衣さん"呼びでも良いと了承してもらったので、湿田さん呼びは卒業した。

「まだ食ってない。今振り付けの練習中!」

「あ、そっすか。邪魔しちゃ悪いっすね~」

ドアの隙間から顔を出している恵衣さんの顔を挟む勢いでドアノブを押す

「いやいや、何しに来たんだよ!チャーハンよこせよ!」

必死に抵抗する恵衣さん。

「よこせは無いでしょ~。このチャーハンは俺のですよ」

パッと力を緩めドアノブを離す。

「うわっ!…あぶねぇな!」

前のめりに転びそうになる恵衣さん。

チェック柄のミニスカートの学生服の様なコスチューム姿だった。

「そういえば恵衣さんの居る"YKC28"でしたっけ?芽衣さんは何位なんですか?」

「う…、なんだよ急に…」

「教えてくれたらチャーハンあげますよ?」

「なに…、わかったよ!教えるから中入って!」

「はーい」

よほどチャーハンが食べたいのか、渋々ではあるが部屋に上がらせてもらえた。


以前、奏浜さん六倉さんと一緒に大掃除をしたおかげで部屋は片付き、ダンスの振り付けを練習する程のスペースは確保出来るぐらいには保たれている。

まぁ、食事は俺が作った物を一緒にキッチンで食べているから汚さなくなっただけかも。

等身大が映る立ち鏡とスマホスタンドが並んでいた。

ステージで着る衣装だろうか、カーテンレールにハンガーを掛け衣装は干してある。

「だからじろじろ見るなって!」

背後にギラリと睨む視線…。

「はい麦茶!」

コップに注がれた麦茶を渡された。

「いつの…」

「失礼な!さっき冷蔵庫から持って来たの!」

「どうも」

と麦茶を一口飲んだ。

とりあえず床に座ってテーブルにチャーハンと麦茶を置いた。

「…13位」

「え?」

「私の順位!13位…」

順位を言うことにためらいがあるようだ。

「メンバー何人中13位なのかにもよるけど…」

「ステージに立ってる研究生まで入れれば32人中…かな」

そういえば…、恵衣さんの所属してる"YKC28"という地下アイドルグループがどういう活動しているのかはよく知らないな。

「踊ってみてくださいよ」

「えぇ…」

視線を泳がせてもじもじする恵衣さん。

「toktit。今流行ってますよね?投稿とかしてないんですか?」

「してる…けど」

スマホスタンドに取り付けていたスマホを外して持って来た。

"全力変顔始めるよ~"

の音源とともにコスチューム姿の恵衣さんが1人で写っている。

その動画の出来も、変顔と言うには程遠い。

可愛らしい顔は保ちつつぶりっこの様に顔を変えて見せる。

ちょっと唇を尖らせるだけ…、

ちょっと舌を出すだけ…、

ちょっと寄り目をするだけ…。

「てめえなめてんのかぁ!」

ハリセンで恵衣さんの頭をパーン!

「すんませーん!」


年上なのに、まるで妹をからかっているかのように、馴染み始めてきた。










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