喜んでいいものか…
湿田さんの部屋の掃除をする決心をした奏浜、嵐矢、六倉の3人。
いざ、異臭漂う汚部屋という戦場へ。
「ど、どうぞ…入ってください…」
とりあえず寝起きの姿から身だしなみだけは整えた湿田さんが部屋の中に案内する。
まぁ、案内も何も、ドアを開けたら窓のある壁までゴミが散乱してるんだけど…。
「おじゃましまーす…」
「靴のままで良いっしょ?後で床は拭くし」
「ぁ、うん気にしないで入って」
えぇ…気にしないの…?
奏浜さん六倉さんに続いて俺も部屋の中に入る。
初めて入る女の子の部屋がごみ屋敷って…喜べないな…。
玄関を入ってすぐ廊下の壁につっかえ棒がしてあって洗濯物が干してある。
キャミソールやらブラジャーやらショーツやら靴下やらが…。
見られて抵抗無いのかこの人…。
「新品のゴミ袋はどこにある?」
六倉さんが湿田さんに聞く。
「ゴミ袋?あぁ…衣装ケースの下の段…かな」
「どこだよ衣装ケース…」
「部屋の奥にありますね…」
奏浜さんが部屋の奥を指さす。
その衣装ケースすらもゴミに埋もれていた。
洗濯物が干しっぱなしなのが理解できた…。
「とりあえず窓開けるぞ」
六倉さんはゴミを掻き分け窓際までたどり着き、締め切ったカーテンと窓を開ける。
はぁ、太陽が眩しいなぁ。 …じゃなくて!
部屋の壁にはアイドル活動で作成したであろう、水着姿の湿田さんのポスターが貼ってある。
スタイルは結構良いんだろうなぁ。
"メイメイの笑顔で癒してあげるね!☆"
と書いてある………うん…。
「あんまり見ないでよ恥ずかしいから…」
「え!すみません…」
この部屋の状態で良く言いますね…。
フローリングの床はまったく見えないほど脱ぎ散らかした服やメイク道具や飲みかけのペットボトルで埋め尽くされている。マットレスがかろうじて顔を出している。
「い、いつもどこで寝てるんですか?」
「え?ここだよ、この毛布の上」
と湿田さんは変わらぬ様子でゴミがパンパンに詰まったゴミ袋にブランケットを敷いた即席ベッドに寝転がる。
いつも寝ている場所だと分かるほどフィットしていた。
ガサゴソ、と六倉さんは衣装ケースの周りのゴミを退かす。
「うっぷ…」
退かしたゴミの下からで出来たのは小さな手鍋、中の茶色い汁にはカビが生えている。
窓を開けている故にその激臭が風に乗る。
「うっ…大丈夫ですか…六倉さん…」
「湿田さん!あの鍋の中何なんですか!」
「え…わかんない…ラーメン作った時のやつかなぁ…」
いつのラーメンだ!スープ残すな!すぐ洗え!
六倉さんは鍋の汁をこぼさないように退かし、衣装ケースの下の段を開けた。
「あったゴミ袋…、これで始められる…」
10枚入り可燃ゴミ袋が7枚残っていた。充分だ。
「とりあえず汚れてもう着ない洋服は捨てましょうね湿田さん。あと湿田さんも掃除するの!」
「…はい…」
お母さんみたいな怒り方をする奏浜さんに湿田さんは素直に返事をする。
部屋のゴミは可燃ゴミだけでなくペットボトルや段ボールもある、可燃ゴミ袋だけじゃ足りない。
「俺の部屋からペットボトル用の袋持ってきますね」
「おぉ、頼む」
自分の部屋にゴミ袋とバケツを取りに戻る。
ペットボトルの中身は飲みかけの状態で放置されているものばかりで、カビが生えたものや時間が経ち二層に分離したものをとりあえずバケツに溜めて1階の共同キッチンのシンクに流す。
確かに、2階に住む人は1階に降りてきて料理するの面倒かも、コンビニ弁当のゴミが増えるわけだよ。…いや、それじゃぁまた繰り返すな…。
俺はペットボトル類、奏浜さんと湿田さんは衣類の断捨離と整頓、六倉さんは可燃ゴミと手分けして掃除に取り掛かり、無事3時間に及ぶ掃除が終了した。
「ありがとうございますみなさん。ほんと助かりました」
「壁のシミは取れなかったけど、そこは我慢してくれよな」
「こんなに綺麗に整頓したんですから、せめて1か月は保ってくださいね」
「はい…努力します…」
「コンビニ弁当ばかりじゃ栄養偏りますよ?俺がご飯作りましょうか?」
と、俺は湿田さんに提案してみた。
「え!なんですかそれ!」
ビックリして目を丸くする。
「1人分作るのも3人分作るのもそんなに手間は掛からないかなぁって、1階のキッチンで料理するんだし」
「嵐矢さん料理得意なんですか?」
奏浜さんが聞いてきた。
「まぁ、カレーとか肉じゃがくらいなら…」
「すごいですね!男の人なのに」
奏浜さんが目をキラキラさせて俺の顔を見る。
「じゃぁ、今度材料買って来て、皆で焼き肉パーティーでもやろうぜ!嵐矢の手料理メインでな」
「いいですねそれ!」
「えぇ…マジですか…」
「いいじゃねぇか、お前の入居祝いだよ。これからよろしくな」
「よろしく嵐矢さん!」
「そう…ですか、ありがとうございます」
入居して早々女子部屋の掃除をする所から始まったコーポ•ペルーシュでの生活。
こんな俺でも、受け入れてくれる人たちが居てくれて少しほっとした。
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