力持ちな助っ人

次の日、10時15分。

203号室の湿田さんは帰宅しているみたいだ。

コンコンと湿田さんの部屋のドアをノックする。

ガサゴソ、

「…ふぁ~い」

あくびが混じった気の抜けた返事をする。

「おはようございます湿田さん。今日こそはお掃除させてもらいますよ。今、奏浜さんも呼んできますから」

「ぇ…ぁ…わかったよ…、あ、ありがと…」

俺は階段を下り、103号室の奏浜さんの部屋の前まで行く。

コンコン、とノックする。

「はーい。あ、お掃除ですね?了解しました」

俺の顔を見るなり湿田さんの部屋の掃除であると察した奏浜さん。

「よろしく、臭くて我慢出来ないからさ…」

「ちょっと待っててくださいね、掃除しやすい服装に着替えて来ますね」

「あ、うん」

しばらくすると上下ジャージ姿の奏浜さんが姿を現した。

「お待たせしました」

学生時代に着ていた物だろうか、ジャージ姿も似合っていて可愛い…。チアガールとかやってたんだろうなぁって感じがする。

「六倉さんにも声掛けましょ」

「むくらさん?」

「102号室の六倉さんです。私が事前に六倉さんに掃除のお誘いをしておいたので」

と言って奏浜さんは102号室のドアの前に向かう。

コンコンとノックする。

「こんにちは六倉さん、お誘いにきました」

するとしばらくしてドアが開いた。

「こんにちは彩也奈ちゃん。掃除だな?まかせろ」

「203号室の嵐矢さんも一緒です」

「嵐矢沢労です。よろしくお願いします」

「おう、よろしくな。俺は六倉 昇だ」

とさわやかスマイルで挨拶するタンクトップをきた男性。


六倉 昇(むくら のぼる)26歳。

見事なまでに実った腕の筋肉とシックスパックな腹筋。浮き出た腕の血管までも綺麗に見える。

部屋の中にはベンチプレスやランニングマシンなど筋力を鍛えるための器具が置いてある。

汗酸っぱいような運動部の部室のような臭いがする。

目指すはフィジークの世界大会に出ること。


「3人でお掃除しちゃえばすぐ終わりますね」

「1階居る俺たちの部屋まで匂って来ると、俺もさすがに我慢出来ないからな。早く片付けようぜ」

「はい」

3人で2階に上がろうとする。

すると101号室の大家部屋のドアが開く。

ドスンと段ボールが床に落ちた。

「―っがぁ、ちょっと待ってのぼる!あんたの荷物届いてるわよ!Amezonから。ダンベルだぞ!重すぎるわよ!」

「あぁ、ごめん大家さん…」

と六倉さんは大家さんの傍に駆け寄り荷物を受け取る。

ひょいっと段ボールを肩に担ぐ。

「軽いですよ?15kgだし」

「私にとっては重いんだよ!」

六倉さんはダンベルの梱包された段ボールを自分の部屋の置きに行く。

「大家さん。今から3人で湿田さんのお部屋のお掃除してきますね!」

と奏浜さんが大家さんに笑顔で話す。

「おぉ、そうかぁ、よろしくね。さすがに臭すぎるし…」


本仮屋 明実(もとかりや あけみ)42歳。

コーポ•ペルーシュの大家でもあり、アパート向かいの本屋"織紙書店(おりがみしょてん)"の店主もしている。

酒やけのようなかすれた声がスナックのママのような包容力を感じさせる。でも本屋さんなんです。





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