ザ•女子部屋

「ごめんなさい、ぶつかっちゃいましたね…」

「あ、いえ…こちらこそ気が付かなくて…」

本屋の小説コーナーで出会った女性は、

栗色髪セミロングくらい、ブラウスに薄手のサーモンピンク色のカーディガンを羽織っている。

部屋着のようなラフな格好だった。

「この辺の人ですか?」

「え?私ですか?はい、お向かいのコーポ"ペルーシュ"です」

女性は素直に住んでいる所を教えてくれた。

「そうなんですか?実は俺も3日前に引っ越してきたんですよ、202号室です」

「ご近所さん……ですね」

同じアパートの住人だと知ったその女性は、少し恥ずかしそうに身体を縮こめる。

まさかこの本屋で出会った女性が同じアパートの住人だとは思わないもんなぁ…。

…てか、今はあんまり人と話したくない…。

目やにすぐ出てくるし…。

マスクの下は鼻水が垂れているから…。

「ごめんなさい。俺は…これで…」

俺はあまり顔を見られないように手で顔を覆い小説コーナーを離れた。

「…ぁ…」

マスクしててほとんど顔が分かんなかった…。

同じアパートなんだ…。

202号室って言ってたな…。あとで挨拶しにいこうかな…。

目当ての小説を手に取りレジに向かう。

「おはようございます大家さん」

「おはようさやちゃん」

裏表紙のバーコードを読み取る。

「580円だよ」

「アパートに新しく引っ越してきた人居るの?」

「あぁ…、3日前に男性が1人ね…。東北から来たらしいわよ?」

「そうなんだぁ…」

「結構イケメンだと思うわよ?」

「そうなの?あんまり顔見てなかったなぁ…」

本の会計を済ませアパートに戻る。

コーポ•ペルーシュの一階103号室。

すぐ隣がシャワールームなの有難いよね。

この"ペルーシュ"ってぬいぐるみっていう意味なんだって!

私もぬいぐるみ集めるのが趣味だから私にピッタリなアパートだと思わない?


奏浜 彩也菜(かなはま さやな) 21歳

窓しかないワンルームだけど、好きなぬいぐるみ達に囲まれていたら気にならないもんだよ?

ベッドにも窓際にもスヌー♡ーとかリラッ◇マとかダッフ☆ーが鎮座する。

可愛い部屋よ。 うん…、多分。







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