昌雄 前編

 この大学は腐ってやがる。普通の学生も多いけど、裏ではクズが牛耳ってやがるんだ。…俺は知らないけど、他の大学も似たようなもんなのかもしれないな…調べてみたら有名な大学でも事件になってたりするしよ…

 …クズに取り入るのがこの大学での賢い生き方だろう。取り入った後…あまりの腐敗っぷりに俺でも驚いたけどよ…


 まあ、人間は慣れちまうもんだ。俺が3年になる頃には俺はクズの中心人物みたいになってた。人脈って大事だよな。コツコツとパイプを繋ぎながら害悪になりそうなクズを排除してたらこうなってただけだ。

 リスクを考えて、俺自身が表立って動く事は無い。お偉いさんのご機嫌取りに使う女は後藤に用意させる。あの馬鹿はやり過ぎちまうが…意外と使い道はある。目立つからいざという時のスケープゴートには丁度良いしな。ちゃんと見せしめを使って教育してあるから裏切る心配もないはずだ…



 表面的には普通の学生で通している俺には京介っていう友人がいる。コイツといる時は裏の事を忘れて自然体でいられる…貴重な友人だ。基本的にお人好しだしな。

 京介と湯浅が付き合い出したと聞いて、俺は祝福したよ。汚れきってる俺なんかと違って綺麗な2人だ。仲良くやるならそれに越した事は無い。


 京介と湯浅が付き合い出してしばらくした後…俺は橘と関係を持った。あまり噂はされてないが、誰とでも寝るって聞いたから…性欲処理に丁度良いかと思ったんだ。

 体を重ねる度に橘にハマっていった…この女…マジですげぇ…気が付いた頃には俺は橘から抜け出せなくなっていた。橘が他の男に抱かれないように根回しをして、俺だけと関係を持つようにした。



 橘との行為の後…スマホを確認すると後藤から連絡がある事に気付いた。…橘は寝てるみたいだな。急ぎの用かもしれない。かけ直してみるか。


 『笹嶋。いきなり連絡して悪いな』


 「…何の用だ?」


 『いや…最近よ、女が足りない気がするんだ…だからよ…そろそろ新しい女が欲しいと思ってよ…』


 「あ?新しい女が欲しい?ダメだ。派手にやるのは危険だ。そもそもお前が無茶をしすぎるから保たねぇんだろうが…」


 『だってよ…すぐに壊れちまうんだもんよ。あ、なんなら橘でもいいぜ。最近、お前と仲が良いらしいじゃねえか』


 「…あ?俺のお気に入りに手を出したらぶっ殺すぞ?」


 後藤の言葉に一瞬でキレそうになった。橘をお前なんかに渡す訳ないだろうが…


 『ちょっ…スマン。俺が悪かった…でもよ…女が足りないのはマジなんだって…』


 「チッ…わかった。なんか考えといてやる。勝手な動きはするんじゃねぇぞ。お前のせいで足が付いたら報復するからな…」


 『わかってるって。それじゃ、頼んだぜ』


 電話を切って溜息を吐いた。…女…か。前までは気にしなかったのによ…今は何でかはわからないけど気が乗らねぇ…


 「面白い話をしてたわね」


 「……っ!?…なんの事だ?」


 ベッドで寝ていたはずの橘が体を起こして話しかけてきた。…どこまで聞かれた?…なんで笑ってやがる?


 「大丈夫よ…私は他人に話したりしないわ…協力してくれるならね」


 「……俺を脅す気か?」


 橘は楽しそうにそう言ってきた。なんだ?何が狙いだ?橘の考えが全くわからない…俺は橘のそういう理解できない部分が気に入っているんだが…今は警戒しないと…


 「違うわ。ただの提案よ」


 「…面白い。話してみろよ」


 橘からの提案は俺が全く予想していない物だったが…まとめてみると中々悪くない提案だった。…橘はこっち側の人間だったみたいだな…


 橘の提案は湯浅を差し出すから堕として欲しいという物だった。堕としてくれるなら知人もオマケとして付けるとか…この女…狂ってやがる…だが…面白い。

 手駒の1人が働いている居酒屋で飲み会をセッティングしてまとめていただく事にした。女を運ぶ為の迎えも必要だな。1台じゃダメだ。人数分用意する。居酒屋で働いているのは1人だけ。他は無関係だからな。足が付くリスクは極力避ける。


 俺はあくまで計画と準備だけだ。睡眠薬を後藤に渡して居酒屋の奴に盛らせる。

 湯浅を狙うと伝えたら後藤が異常なくらいやる気になってたな…熱くなりすぎて壊さなきゃいいんだが…


 「最高だぜ!お前の友人の彼女になっちまってたから諦めてたんだけどよ…まさか湯浅とやれる日が来るとはな!」


 「…壊すなよ?」


 「ああ。ちゃんと可愛がってやるよ…へ…へへへ…」


 不安しかない。まあ…湯浅が壊れたら壊れたで橘が喜ぶからいいか。

 俺は当日は京介の足止めをしなきゃいけない。冷蔵庫のコンセントを抜いて放置。これで良し。壊れたから抜いてあったって事にすれば怪しくないだろう。そろそろ買い替えたかったから丁度良い。

 仕込みとしてビールを買って入れておく。…まあ、常温でも保管はできるからまた冷やせば飲めるだろ。


 作戦当日…俺は予定通り京介の足止めをしている。自分で飲むのは怖かったから京介に缶ビールを押し付けて自分はコンビニで買ってきたチューハイを飲んでいる。


 「朝からステーキ2枚だぞ…いや、美味かったけどさ…」


 「湯浅って意外と天然なのかもな~」


 その湯浅は今頃…まあ、京介と湯浅は別れる事になるだろうから関係ないだろう。

 …計画が上手くいったら橘は京介と付き合う事になる。…よくわかんねぇけど面白くねぇな…自分の女が奪われるのを黙って見てる気分だ…そんな関係じゃねぇのはわかってるけどよ…


 「昌雄。聞いてるのか?」


 「…ああ。ちゃんと聞いてるって」


 適当に飲んで寝る事にした。俺が忙しくなるのは明日からだ。女達を商品にする為に後藤達を使って仕込まなきゃいけない。やれやれ…あの爺共はいつになったら枯れるのかね…





 仕込みが順調に進んでいたと思っていたある日…湯浅が動いた。あの女…やっと従順になってきたと思った矢先に!

 俺はすぐに根回しをした。捕まるのは末端の連中と一部の爺…教授と役員だけでいい。末端のまとめ役として後藤に力を与えていたのはこういう時の為だ。


 「…お前が甘すぎたせいだ。責任はとってもらう」


 『ふざけんなよ!なんで俺達だけが捕まらなきゃいけねぇんだよ!』


 「散々いい思いをさせてやっただろう?俺が力を貸してやらなきゃ…お前はとうにブタ箱に入ってたんだよ」


 『…頼む…助けてくれ…お前ならどうにかできんだろ?なあ?頼むよ…』


 「…ダメだ。俺が動くと足が付く。…安心しろ…出所後の生活と家族の安全は約束してやるよ…お前がちゃんと黙っていればだがな…」


 『…嫌だ…捕まりたくねぇ…』


 「もう無理だ。諦めろ。もし俺に捜査の手が伸びてきたら…わかってるよな?」


 『…わかった。わかったから…』


 「じゃあな。出所後にまた連絡する」


 その言葉を最後に電話を切った。次は…教授か。面倒だな…


 「教授…貴方のお気に入りの湯浅が通報しましてね…貴方はもう終わりです」


 『ふざけるな!お前にどれだけ協力してやったと思ってるんだ!』


 「調子に乗って湯浅を呼び出しすぎたんですよ。若い女を抱きまくってきたんだからそろそろ落ち着いたらどうです?刑務所でね」


 『…お前も道連れにしてやる…』


 「できると思いますか?俺を守ろうとする人達を敵に回す事になりますよ?」


 『………』


 「こちらには教授が今まで協力してくれた証拠もありますし…俺が捕まると教授の罪状が追加されてしまうかもしれませんね…」


 『…わ…わかった…馬鹿な事を言って済まなかった…』


 「わかってくれればいいんですよ…では」


 教授と似たような内容の会話を役員ともした。エロ爺共が…これでちょっとは大人しくなるだろ。

 しかし…湯浅が動いたのは本当にヤバい…あの女…折れてた他の女まで動かしやがった…なんて精神力してやがるんだよ…クソが…これ以上調子に乗られても厄介だな…

 後藤達が逮捕された後、湯浅達への抑止力として動画の一部を大学に流した。俺と関わりの無いクズ共はこの動画を使って湯浅達に接触しようとするだろう。これで少しは目眩ましになるはずだ。

 やれやれ…しばらくは俺も大人しくしてなきゃな。爺共も警戒して無茶は言わないだろう。誰よりも保身に長けた連中だ…そう簡単には捕まらない。


 自由に動けないんじゃ仕方ない。今更だが…純粋に大学生活を楽しむとするか。俺もそろそろ足を洗う頃合なのかもしれない…後継ぎを探さなきゃな…

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