小百合 前編

 私は浅倉君の事が好きだった。私は前から浅倉君との距離を少しずつ詰めていたのに…志乃が私から浅倉君を奪っていった…

 志乃は私から浅倉君を横取りした癖に私に浅倉君との惚気話を聞かせてきたりする。なんて性格が悪い女なんだろう…こんな女…死ねばいいのに…

 しかも親友気取りでいろいろ口を出してくるし…1人で飲み会には行くなとか…ふざけないでよ。浅倉君をアンタに盗られたから他の男を探さなきゃいけないのよ!

 浅倉君と志乃が付き合い出してから私は何人かの男と関係を持った。いくら快楽に溺れても浅倉君の事を忘れられない…きっと浅倉君は私の運命の相手なんだ…だからこんなに惹かれるんだと思う…


 新しく関係を持った相手は浅倉君の友人の笹嶋君だった。パッと見だとわからないけど…笹嶋君は女の扱いに慣れている気がする。私との相性がとても良いみたい…

 私達は頻繁に体を重ねるようになった。


 「笹嶋君…凄いね」


 「橘こそ…女にこんなにハマったのは初めてだぜ」


 …行為の後しばらくして…私が寝たと思ったのか、笹嶋君は誰かと電話をし始めた。


 「あ?新しい女が欲しい?ダメだ。派手にやるのは危険だ。そもそもお前が無茶をしすぎるから保たねぇんだろうが…」


 『だって………なら橘でも……』


 「…あ?俺のお気に入りに手を出したらぶっ殺すぞ?」


 電話の相手の言葉はよく聞こえないけど…なんとなく予想はできた。…なるほど…使えるかもしれない……これを利用してあの女がいなくなれば…私は浅倉君と…


 「チッ…わかった。なんか考えといてやる。勝手な動きはするんじゃねぇぞ。お前のせいで足が付いたら報復するからな…」


 『わかっ………頼んだ……』


 笹嶋君は電話を切って深い溜息を吐いていた。


 「面白い話をしてたわね」


 「……っ!?…なんの事だ?」


 「大丈夫よ…私は他人に話したりしないわ…協力してくれるならね」


 「……俺を脅す気か?」


 「違うわ。ただの提案よ」


 「…面白い。話してみろよ」


 私はあの女を浅倉君から引き離す計画を笹嶋君と一緒に立てた。私は浅倉君を手に入れる…笹嶋君達は新しい女を手に入れる…利害の一致。私達は協力者になったのだ。


 笹嶋君の用意した男…後藤君達と私が集めた女で飲み会を開く。私が集めた女は後藤君達に渡す。志乃を堕とす為の報酬だ。

 志乃に断れない飲み会があると伝えると同行したいと言ってきた。予想通り…本当に私の事を馬鹿にしてるわね…

 浅倉君に同行してもらうとか言ってたけど、浅倉君は笹嶋君が足止めしてくれる。来る事は無いだろう。


 

 飲み会の日…私は女達に飲み物を飲むように誘導した。別にお酒じゃなくて良い。笹嶋君が色が変わらない睡眠薬を用意してくれたから…飲み物を飲ませるだけでいいの。

 1時間後…参加した女達は全員眠っていた。店に怪しまれないように眠った女を少しずつ運ぶ。後でアパートで合流するらしい。私は行かないけどね。


 「……お前、怖い女だな」


 「最低な男に言われたら傷付くわね」


 「ハッ…お前はあの野郎とお似合いだぜ」


 後藤君はそう言い残すと志乃を連れて店から出ていった。さて、私も離れなきゃ…いざとなったら私も被害者を装う必要がある。最後の男と共に会計を済ませて店を離れた。



 それから約1ヶ月くらい過ぎた後…志乃がようやく浅倉君と距離を取り始めた。長かった…私も被害者の振りをしているからあまり派手に動けない。呼び出されているように見せかけているが相手は笹嶋君。ただ体を重ねるだけだ。進捗状況を確認する為でもある。


 「お前から渡された女はほとんど堕ちた。湯浅だけは粘ってるけどな」


 「他はどうでもいいわ。志乃を堕として欲しいの」


 「京介に浮気の噂を流しながら後藤に次の指示を出した。そろそろ堕ちるだろう」


 「…やっと…やっと浅倉君と付き合えるのね…長かったわ」


 「……なあ、京介と付き合ってからも…俺との関係は続けてくれないか?」


 「…手元に置いておかないと裏切らないか不安って事ね。わかったわ」


 「…それならよかった」


 志乃が距離を取った事で空いた隙間を埋めるように…私は浅倉君との距離を詰めた。もう告白する事に躊躇っていたあの時の私じゃない…今の私なら…志乃から浅倉君を奪える…いや、取り戻す事ができるはずだ…

 

 最初は志乃の事を気にしていたから一緒に心配する振りをした。

 浅倉君が志乃を諦め始めてから…彼を慰めるように好意を伝え続けた。

 浅倉君が私を見てくれたという確信を得たのと、志乃が動き出したと笹嶋君から聞いたのはほぼ同時だった。

 私はすぐに浅倉君に告白し、関係を持った。凄く幸せだった…やっぱり…浅倉君は私の運命の人…もう絶対に手放したりなんてしない…志乃の事なんて私が忘れさせてあげるから…

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