志乃 前編

 ぼ~っとしてる人…京介の第一印象は本当にそれくらい。でも、下心が透けて見える他の男達よりは遥かにマシだった。

 私に声を掛けてくる男の大半は体目的。別にそれが悪い訳じゃない。そういう風に見られて喜ぶ女もいるのだから。ただ、私はそういう男が嫌い。好みの問題ね。


 私はいつの間にか…京介の近くにいる事に安らぎを感じていた。そのうち京介が私と付き合ってくれないかな~…とか考えるようになり、私から告白して付き合いはじめた。

 京介に小言を言いながら過ごす日々…京介はだらしないけど優しくて、私の事をいつも考えてくれた。私の料理を美味しいって言いながらいっぱい食べてくれるし、私が注意した事はちゃんと直してくれた。

 最近じゃ小言を言う事も減ってずっと京介に甘えているだけになっている。懐が大きいというか…頼りがいがあるというか…一緒にいると安心できる。今の京介はそんな人だ。



 大学3年になると飲み会に誘われる機会が増える。…20歳になる前から行ってる人もいるけどね。

 私の友人の小百合も飲み会に誘われたらしい。


 「私、お酒をあまり飲んだ事が無くて…」


 「別に飲み会だからって絶対に飲まなきゃいけない訳じゃないわよ」


 …とはいえ、悪ノリして飲む事を強要してくる奴もいる。人を飲み会に強引に誘っておいて「飲まないとか無いわ~…」とか言ってくる奴…厄介な絡み酒をする奴は家で1人で飲めばいいのにね…

 小百合は多分、そういうのに絡まれたら断れない気がする…心配だな…


 「…私も一緒に行くわ。京介も来てくれればいいけど…」


 「志乃が来てくれるなら安心できるけど…飲み会は来週の火曜よ。大丈夫?」


 「私は大丈夫だけど、京介の予定が空いているかわからないわね…聞いておくわ」


 その日のうちに京介に予定を聞いてもみたけど、笹嶋君に手伝いを頼まれてるから無理と断られてしまった。京介は申し訳なさそうに謝ってくれたけど、無理を言ったのは私だ。京介が謝る事なんてない。

 


 火曜…小百合と一緒に飲み会に参加したけど、女の子のほうが多かった。ちょっと安心。とはいえ、嫌な男も参加している…京介と付き合う前、私にしつこく付き纏っていた後藤って男…やたらと夜の自慢をしてくる気持ち悪い男だ。 

 小百合は私の他にも友人が参加していたらしく、上手く溶け込んでいるようだ。ビールをチビチビと飲んでいるけど、あのペースなら大丈夫だと思う。

 私は周りの様子を見ながら烏龍茶を飲んでいる。…皆、仲が良さそうに見えるわね。心配しすぎだったかし…ら…





 ……ん…?体が…おかしい…セックスしてる…京介?

 意識が徐々に覚醒していく…私の上で動いていたのは後藤だった…なんで…?


 「なんだよ…もう目が覚めたのかよ」


 「離して!」


 必死に抵抗したけど…全身を使って抑えられて抜け出せない。爪で背中を引っ掻いたりしてたら両腕も抑えられてしまった。


 「反抗的でいいねぇ…無理矢理やってる感じが最高だぜ」


 私の抵抗すら後藤を喜ばせるスパイスになっている…悔しい…京介以外には触られるのすら嫌なのに…

 後藤の事は相手にせず、私は周囲の状況を確認した。多分、アパートの1室…意識の無い女の子達を男が犯している。何人かの男はそれを撮影しているようだ。…女の子を犯している男の1人はさっきの居酒屋の店員だった…どこまで計画的なのよ…

 女の子達の中に小百合の姿は無い。…上手く逃げられたならいいけど…


 「アンタ達…絶対に訴えてやるから…!」


 「はぁ?動画を撮られてるってわかんねぇのか?」


 「それが何よ?撒きたければ撒けばいい。どうせ黙ってても裏で流す気なんでしょう?」


 「…お前の家族や浅倉がどうなってもいいのか?」


 「………」


 「既にレイプって犯罪を犯してるんだ。他に何しても気にしねぇよ。…お前が黙ってれば捕まる事は無い。だから余計なリスクを負う気は無いが…通報するって言うなら話は別だ。捕まる前にお前の周りの奴らを皆殺しにしてやる」


 ただの脅しなのは間違いない。…でも…私の両親や弟…そして京介が酷い目に遭う…想像しただけで怖かった…だから…私は…抵抗を止めた…


 「……」


 「最初から素直だったら可愛がってやったのによ…反抗的な女にはお仕置きが必要だな…お前ら、この女をぶっ壊すのを手伝え」


 後藤の声掛けで近付いてきた男達の中には何人か見知った顔がある。…前に私に声を掛けてきた奴らだ…本当に最低…断ってよかったわ…



 狂った時間は朝まで続き、私達は念入りに脅された後に解放された。呼び出しには必ず応じなきゃいけないらしい。

 アパートで体を何度も洗い、睡眠不足とかいろいろで酷い顔を厚めの化粧で誤魔化した。動くのも辛いくらい体中が痛かったけど…頑張って大学に向かった。…京介に会いたい…ただそれだけの理由で…


 大学で会った京介はいつも通りで…凄く安心した。私の体調不良にもすぐに気付いて心配してくれたし…本当に救われた。

 その日から呼び出され、嬲られる日々が始まった…周りを巻き込みたくなかったから友人達とも距離を置いたけど…京介とだけは時間の許す限り会っていた。

 京介はいつも私の事を心配してくれたけど、私が大丈夫だと伝えるとそれ以上は何も言わない。私の事を信用してくれているのだと思う…そんな京介の信用を裏切っているのは辛かったけど…京介の存在が私の何よりの支えとなってくれていた…

 

 

 ある日…私は大学の構内で後藤に話しかけられた。


 「そろそろ俺の女になれよ?浅倉よりも俺のほうがいいってわかっただろう?」


 「絶対に嫌!京介が貴方に劣る部分なんて何一つ無いわよ!」


 「……俺の女になったら売りだけは勘弁してやろうと思ってたけどよ…もういいわ。お前、今日から爺の相手な」


 「はあ?ふざけないでよ!」


 「お前に拒否権なんかねぇんだよ。機嫌を損ねないようにしとけよ?就活とかいろいろヤバい事になるからな…」


 私ができる抵抗なんて…口で断る程度が限界だ。後藤の仲間の中には京介の友人もいた…私が何かをしたら本当に京介が危険な目に遭うかもしれない…私は結局…後藤の言いなりになるしかなかった…


 その日の夜から…私はエロ爺達の相手をさせられた。中には大学の教授もいた…どこかの会社の役員とか…世の中…本当に腐っている。相手が大物であるのを知るほどに抵抗する気力は削がれていき…京介の身が危険に晒される恐怖が強くなった。

 だから私は京介から距離を置いた。説明はできないから…逃げるしかない。それでも京介と別れるという選択ができなかったのは京介の存在が私の最後の一線だったからだと思う…

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