真緒 後編
今日はテスト前だから半日で授業が終わった。午後からは図書室で吉幸君と勉強する約束をしている。
吉幸君は掃除当番で少し遅れるから先に席を確保して待っていたら軽そうな人に話しかけられた。…後輩っぽい。なんか小っちゃいし。
「先輩。あんな先輩と別れて俺と付き合いませんか?」
「嫌。無理。あり得ない」
相手にするだけ時間の無駄。基本的にチャラい奴は嫌いなの。
「……あの先輩の前の女も俺がもらったんですけど…かなり喜んでくれましたよ。試してみませんか?」
あの先輩の前の女…後輩…
「ああ。アンタが噂の妊娠させたクズ?…芦屋って名前だったかしら?」
「……なんです?噂って…」
「先輩を妊娠させておいて平然と登校してるクズがいるって聞いた事があるの。アンタの事でしょう?」
「俺じゃねぇよ。証拠あんのか?」
「馬鹿ね。アンタ自身が証拠になるのよ。父子鑑定とか知らないの?退学した子は産んだらしいから生きた証拠もあるしね」
「…ふざけんなよ。勝手に妊娠したのはアイツだろうが」
「女が勝手に妊娠する訳ないでしょ。子供は男と女がいなきゃ出来ないの。…坊やには難しすぎたかしら?」
「ああ?」
クズが私の腕を掴む。強がってみたけど…男に力で敵うわけがない。例え私と似たような体格でも…ってあれ?なんか非力っぽい?
本気で振りほどくとクズはあっさりと掴んでいた腕を離した。
「女の細腕も抑えられないとか…アンタ…」
「…お前、あんま舐めてんじゃねぇぞ?」
「文字通り口だけの男だから噛みつくしかできないのかしら?いろいろと小さい男…本当に…小さいわね」
「てめぇ!男に小さいは禁句なんだよ!そんな事も知らねぇのか!」
「…だって…小さいじゃん」
「絶対に許さねぇ!」
クズは私の両腕を掴んできた。…吉幸君ともほとんど手を繋いだ事がないのに…凄く不愉快。
「…気安く触らないで。気持ち悪いから」
「うるせぇよ!」
「おい。何してるんだ?」
やっと吉幸君が来てくれた。そろそろ来てくれるとは思ってたけど…流石にちょっと怖かった。
「…ああ、ザコ先輩ですか」
「……誰だ?」
「吉幸君の前の彼女を妊娠させたクズ」
「…ああ。あの時の…芦屋だったか?今も普通に登校してこれる精神力が凄いな」
「ただのバカよ」
言われても気にしてないんじゃなくて言われてる事に気付いてない…自分に都合の悪い事は聞こえないんじゃないかな…
「人の彼女しか狙えない性癖なんて将来が心配だな…」
吉幸君…本気で心配してる…
「俺に女を盗られたザコ先輩のくせによ…偉そうにしてんじゃねぇ」
「…吉幸君とアンタじゃ比較にすらならないんだけど…どこからその自信は湧いてくるの?」
「なんだよ…クソが…」
クズは自分が相手にされていないとようやく気付いたのかブツブツと文句を言いながらその場から去っていった。
「…真緒。何か言い訳はある?」
「ごめんなさい」
「お願いだから危ない事はしないでくれ…真緒が両腕を抑えられてるのを見た時は気が気じゃなかったよ…」
「吉幸君の事を馬鹿にされてつい…」
カッとなって言った。後悔はしていない。
「…ありがとう。でも真緒は女の子なんだから…危ない事はもうしないで欲しい」
「…うん。わかった」
吉幸君は優しい。でも優しさだけじゃ物足りない人もいるのだろう。吉幸君の前の彼女達はそうだっただけだと思う。
振られたとか別れたなんて別に悪い事じゃない。前の彼女が奪われたのも吉幸君が悪い訳じゃない。ただ…性格の相性が悪かっただけだ。
私と吉幸君の体の相性はまだわからないけど…性格の相性は最高だと思う。私は今まで…吉幸君以上に惹かれる人に出会った事がないのだから…
「う~ん…ここで勉強するつもりだったけど、あんな事があった後じゃ落ち着かないよね」
「…吉幸君の部屋で勉強しよ?」
「そうだね。行こうか」
下校中はずっと吉幸君の腕に抱き付きながら歩いた。芦屋のおかげで吉幸君に抱き付く口実ができた…むふふ…
「真緒…ちょっと恥ずかしいんだけど…」
「芦屋に腕を掴まれて怖かったの…今日だけだから…お願い…」
「そうか。気を配れなくてごめんね…」
「ううん…こうしてると落ち着くから…」
むしろ昂ぶってきてるけど…まだ我慢。この流れで吉幸君の部屋に着いたら…全力で甘える。今日はキスくらいまで進んでもいいよね?ちょっとだけ…ちょっとだけだから…とか考えてたら吉幸君の腕を抱く腕に思わず力が入ってしまった。
「…本当に怖かったんだね」
「…うん。怖かった」
吉幸君…優しい。無理。キスまでとか無理。ムードって本当に大切…今日はいくらでも甘えても許される気がする。
いろいろ妄想してたら口数が減ってしまっていた。吉幸君が空いている左手で優しく頭を撫でてくれる。…私達の体の相性を試すのは今日しかない。こんなチャンスは滅多にないのだから…
吉幸君の家に着く頃には私の頭の中には数パターンのイチャイチャ展開が用意されていた。こんなに頭を使ったのは生まれて初めてかもしれない。
「真緒。少しは落ち着いた?」
「ううん…まだ…」
これからって時に落ち着く訳が無い。今から吉幸君に甘えまくる予定なんだから…
吉幸君の部屋…何回か入ったけど、今日はいつもよりドキドキする。吉幸君のベッドに座り、顔の距離が近付いた瞬間を狙う……今だ!
「吉幸君…」
「え?…っ」
吉幸君が逃げないように頭を両手で抑え、唇を奪う…初めてのキス…キスだけで…凄く幸せ…しばらくの間、呼吸も忘れて吉幸君の唇の感触を味わった。
「芦屋に腕を掴まれた時…凄く気持ち悪かったの」
「…真緒」
「吉幸君だったら…嬉しかったのにって考えたら…我慢できなくなって…」
吉幸君は何も言わずに私にキスをしてくれた。…凄い…全身がポカポカしてきた…こんなに優しくされたら我慢なんて無理だよ…
「吉幸君…」
吉幸君をベッドに押し倒してキスをしながら吉幸君のシャツのボタンを外す。このまま…って思ってたら両肩を掴まれて距離をとられてしまった…
「真緒…俺だって男だ…ここまでされたら我慢なんてできないよ?いいのか?」
「…うん。いいよ」
その後の吉幸君は凄かった。優しいけど激しくて…痛いけど気持ち良くて…私達は求めるままにお互いを貪りあった。吉幸君もちゃんと私の事を考えてくれてたみたいで…机の引き出しにはゴムが用意してあった。
何度も体を重ねた後…シャワーを借りて部屋に戻った。私の服は洗ってくれている最中だから…吉幸君のシャツを借りた。これが彼シャツ…凄い…このシャツ欲しい…
「吉幸君。このシャツ欲しい」
思わず言ってしまった…
「…え?う~ん…別にいいけど…」
吉幸君は乗り気じゃないみたいだけど、今のは肯定とみなす。このシャツは今日から寝間着にしよう。
私は吉幸君の頬にそっとキスをした。
「吉幸君…大好きだよ」
「俺もだよ。真緒」
事が終わった後に気付いたの。体の相性って比較対象がないとわからないんじゃないかって…でも、気にしない。吉幸君と結ばれて凄く幸せで凄く気持ち良かった。私にはその事実だけで良い。
私は絶対に浮気なんてしない。こんなにも愛しい人が…こんなにも愛してくれる人がいるのだから…ずっと大好きだよ…吉幸君…
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