真利奈 後編

 結城君と付き合い始めてからもうすぐ1年か…結城君とはセックスしてた思い出しかない。気持ち良くない訳じゃないけど…私はセックスがあまり好きじゃない…

 今日は両親の帰りが遅いから私の家で私を抱くそうだ。…弟の篤がいるからやめて欲しいって何回言っても聞いてくれない…


 「…そろそろお前にも飽きてきたな」


 「………」


 「抱き心地は悪くないけどよ…反応薄いんだよ。馬鹿みたいによがり狂う女のほうが好きなんだよな…」


 そう言いながらも結城君は止まらない。最近はいつもこうだ。…我慢していればそのうち終わるからいつものように我慢していよう…


 「そうだ。お前さ、他の男に抱かれてきてくれねぇか?」


 「……え?」


 いつもと違う言葉…私を他の男に…?


 「ちゃんと分け前として半分はお前にやるよ。お前は可愛いからな~…なかなか稼げると思うぜ?」


 「…嫌」


 「お前の意思とかどうでもいいから。明日から頑張ってくれよ」


 「嫌!」


 「あ?」


 結城君は私の髪を無造作に掴んで上に引っ張った。


 「わりぃ。よく聞こえなかったわ。もう1回言ってくれよ」


 「…嫌…です」


 断った瞬間…顔に激痛が走った。殴られたらしい…


 「もう1回」


 「……嫌」


 また殴られた。さっきより痛い…なんで…なんで…こんな…


 「もう1回」


 「…………」


 何も言わなかったらまた殴られた…髪を掴んでいた手を離し、体中を殴られる。


 「…もう1回だ」


 「……絶対に嫌」


 更に殴られる。体中が痛い…でも…これ以上…堕ちたくない…ここで耐えなきゃ…私は…


 「……これで最後だ。他の男に抱かせてもいいよな?」


 「………い…や…」


 体を丸めるようにして耐えていた私を結城君は全力で蹴ってきた。左腕から嫌な音が聞こえ…私は激痛で気を失った…


 

 目を覚ますと病院だった。左腕にはギプスが巻かれている。私が寝ているベッドの隣には母さんが座っていた。


 「目が覚めたのね…私がわかる?」


 「…うん」


 「篤から電話があってね…急いで家に帰ったら全裸の男が真利奈をレイプしていたから通報したわ…逃げられたけどね」


 「…そう…なんだ」


 口の中が痛い。顔も…殴られた左頬が腫れているのがわかる。


 「…あの男は…真利奈の彼氏なの?」


 「…うん」


 「いくら貴女の彼氏でもね…親として許せない事はあるのよ。娘と息子を傷付けられて黙っていられる訳が無いでしょう…」


 娘と…息子?…まさか


 「…篤は?」


 「…別室にいるわ。右足の骨折…怪我だけで言うなら貴女よりも重傷よ…」


 「なんで…なんで篤が…」


 「…貴女の彼氏を止めようとしたんでしょう。笑いながら折られたって…絶対に許さない…」


 そんな…篤はサッカー部なのに…私があんな馬鹿な男と付き合ったから…篤まで…


 「…母さん…私…被害届を出したい」


 「元々、篤の分で出すつもりだったけどね…貴女も出すって事で良いのね?」


 「うん」


 あの男に未練なんて無い。…そもそも最初から好意があったのかももうわからない。自分で吉幸と別れておいて自棄になって…私は本当に最低だ…

 …でも、私だけでなく、篤にまで手を上げたあの男を許す気は無い。


 数日後、自分で動けるようになった私は篤の病室に来ていた。


 「姉ちゃん。動けるようになったのか」


 「…うん。篤…ごめんね…」


 「姉ちゃんは悪くねぇよ。…まあ、男を見る目はどうにかして欲しいけどな」


 「…うん」


 篤の右足はギプスで固められて吊されている。…血が足に溜まらないようにしてるんだったかな?不自由そう…寝返りもできないじゃない…


 「…姉ちゃんの彼氏だったし…その…そういう事をするのは悪い事じゃないと思ってたから母さん達には今まで黙ってたけどさ…流石に暴力はないわ…」


 「…うん」


 「母さんに勝手に連絡したからさ…姉ちゃんは俺に対して怒ってるかもな~って心配だったんだよ」


 「そんな訳ないでしょ…私を助けてくれてありがとう。大怪我させちゃってごめんね…」


 篤と話して気付いた。篤と吉幸は似ている。性格は違うけど…無償の優しさがある。

 だからだろうか…目から勝手に涙が出てきた。殴られていた時も泣かなかったのに…心地良い優しさで泣くなんて…


 「…篤…本当にありがとう」


 「別にいいって。…久しぶりに姉ちゃんとちゃんと話せた気がするな」


 あの男と付き合い出してから私の視野はどれだけ狭くなっていたのだろう…自棄になって…皆に迷惑をかけて…ずっと心配してくれていた弟の事にも気付かなかったなんて…



 篤や母さんのおかげで私は立ち直る事が出来た。学校にも復学したけど…3年になっててクラス替えがあったから慣れるまで時間がかかってしまった。

 吉幸とは違うクラスか…同じクラスだったとしても話しかけられないんだけどね。

 たまに廊下で吉幸を見かけるけど里見さんと一緒にいる事が多い。翔子は後輩と付き合う為に吉幸と別れたんだったわね…

 里見さんの事はよく知らないけど、悪い子じゃないと思う。吉幸と里見さんが仲良くしているのを見て胸が痛かったけど…今更よね。吉幸が翔子と付き合ってた時は何も感じなかったのになぁ…本当に今更よ…


 私も…前を向かなきゃ。1人で突っ走って勝手に躓いて皆に迷惑をかけたんだもの。これからはちゃんと歩いて行かなきゃいけない。

 吉幸と付き合った事…あの男と付き合った事…その経験を活かして、次の彼氏とは仲良くやってみせるんだから!

 吉幸。里見さんはきっと良い子だよ。あんなにも真っ直ぐに吉幸の事だけを見てるんだもの…きっと上手くいく…だから、2人で幸せになってね。

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