真緒 前編
私に初めての彼氏が出来た。同じクラスで隣の席の小林君。誤解されやすい私の言葉をしっかりと聞いてくれて…怒らずにちゃんと答えてくれる優しい人。
小林君の友人である塚本君から小林君が振られた事があると聞いた。…胸が凄くザワついた。詳しく聞きたいけど、とてもデリケートな事…小林君に直接聞くのは怖くてできない…でも…知りたい。
しばらく考えたけど、私は知らなきゃいけない気がする。だって…振られたって話を聞いてから私は小林君とどう接したらいいかわからなくなってるから…
小林君には聞けない…だから私は塚本君に聞いた。
「吉幸を振った2人の事を教えろって?」
「うん。お願い」
「…悪い。あんまり話したくねぇ…」
「…無理を言ってるのはわかってる。でも…どうしても知りたいの」
「…なんでだ?」
「私が小林君にどう接したらいいのかわからなくなったから…」
「なるほどな。…吉幸の言った通りって事か」
「何が?」
「お前が無口なのは周りに気を遣ってるからだって…吉幸が前に言ってたんだよ」
「…小林君が…」
「…わかった。話してやる。面白くない話だけどな…」
最初の彼女…佐竹さんは小林君より好きな人が出来たから別れたらしい。その人が小林君より積極的だからって…
恋人がいる女に対して積極的とか…下心しか見えないんだけど…普通に考えて体目的じゃないかな?…彼氏がいても奪ってやるってくらい好きだったって事?…ん~…
2人目の彼女…真壁さんは後輩に告白されたから小林君と別れたそうだ。…後輩のほうが小林君よりも好みだったのなら…仕方ない…のかな?なんとなく腑に落ちない気もするけど…しかも妊娠して退学したとか…
「………」
「面白くない話だっただろ?」
「…うん。でも…凄く助かった。ありがとう」
塚本君の話を聞いて…小林君がたまに達観した表情を見せる理由がわかった。小林君は多分、私の事もそう見ている気がする。この女も自分を捨てるのだろうと。
そう考えると腹が立ってきた。信用されていない自分と勝手に私の事を諦めている彼に。
翌日…私は昼休みに小林君を屋上に誘って想いをぶつけた。教室で言うのは流石に恥ずかしくて無理だったよ…
「小林君。私は絶対に他の男に靡いたりしない。だから貴方もちゃんと私の事を見て!」
感情が昂ぶりすぎて怒鳴るように小林君に言った。小林君は面食らっていたけど…わかったと言いながらハンカチで涙を拭いてくれた。いつの間にか私は泣いていたらしい…
それからは小林君と話をする時は彼の顔を見て話すようにした。顔色を伺っている訳じゃない。正面から向き合いたいだけだ。
話を聞くまで小林君が受け身なのは優しいからだと思っていた。だけど…実際は諦めているだけ。そんなの嫌だよ。ちゃんと横にいるのに見てくれてないのと同じじゃない。だから私は彼をデートに誘う。行き先は彼に決めてもらった。彼に私の事を考えてもらう為に…
私は彼を縛っているのかもしれない。それでも…私は彼にちゃんと向き合って欲しかった。
そんな感じで3ヶ月過ぎた。季節は夏になっている。私は進学するつもりだけど…彼はどうするんだろう?進路の事は話した事が無いなぁ…って考えてたら小林君から聞いてきてくれた。
「里見さんは進路はどうするの?」
「地元の〇大に行こうと思ってる」
「〇大か。俺と同じだ。一緒に行けたらいいね」
何気ない会話だった。でも、小林君が私と一緒にいたいと自分から言ってくれたのは初めての事だった。嬉し涙を隠す為に私は小林君の背後から抱き付いた。
「里見さん!?」
「…名前で呼んでくれたら離す」
「…ま、真緒さん?」
「ダメ」
「真緒?」
「うん。それでいい…でも、嬉しいから離さない」
「えぇ…」
小林君。ごめんね…本当に嬉しかったから…涙が止まってくれないの…
…今度からは私も吉幸君って呼ぼう。私はちゃんと吉幸君の彼女として距離を縮められているから…名前で呼んでも大丈夫だよね?
その日から私達の距離はゆっくりと…確実に近付いていった。
「真緒は理数系が苦手なんだね」
「…苦手だけど頑張ってるもん」
「ああ。ちょっとしたミスを無くせば確実に成績は上がると思うよ。…ちょっと小テストみたいのをしてみようか」
「…家でテストとか…」
「ミスしやすい問題を集めてみました」
「吉幸君…意地悪だよ」
「7割正解で合格点かな」
問題を見てみると引っかけ問題が多かった。…苦手だ。私は考えすぎて引っかかる事が多いから…
「む~…」
「合格点を取ったら褒めてあげよう」
…吉幸君のご褒美…なんて魅力的な提案…私は持てる知識を総動員して力の限りを尽くしたけど…結果は6割ちょっと。…引っかけには勝てなかったよ…
「6割正解か…」
「頑張ったのに…せっかくのご褒美が…」
「まあ…6割でも及第点かな。間違えた部分も惜しい感じだし…」
「…ご褒美」
吉幸君は結構厳しい。だから無理矢理ご褒美をいただく事にした。吉幸君の膝に頭を乗せて膝枕…ヤバい。甘々な恋人っぽい…
「今回は特別だよ?」
吉幸君はそう言って優しく頭を撫でてくれた。…これダメな奴。もう今日は勉強しない。だってここから動けないもん。
「むふふ…」
「学校じゃ見た事無い顔してるよ…可愛いけどさ…」
こんなに優しくて素敵な人なのに…前の彼女達はどうして吉幸君と別れちゃったんだろう…?
私には理解できないけど…ありがとうと言いたい。前の彼女達が別れてくれたから…私は吉幸君と付き合う事ができた。吉幸君は私だけの大切な人…絶対に返さないから…
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