吉幸 後編

 3年になってすぐに怖いクラスメイトに目を付けられてしまった。里見 真緒…通称魔王。可愛い顔だけどかなりの毒舌…と一樹に教えてもらった。隣の席だから逃げられない…


 「小林君。暗すぎ。そんな顔されたらこっちまで暗くなる」


 「え…ごめんなさい」


 …つまり、暗い顔をしてたら里見さんが気にするって事か?…気を付けよう。

 それからも里見さんの毒舌攻撃は続いたが…何度も聞かされているうちに里見さんは表現が悪かったり、言葉が足りないだけで間違えた事は言ってない事に気付いた。


 「塚本君。煩い。騒ぐなら廊下で騒いで」


 「普通に話してるだけなんだが…」


 里見さんが意味もなく攻撃してくるのは珍しい…何か理由があるのだろうかと思って周囲を確認する。

 里見さんの後ろの席の女子が机に突っ伏していた。…なるほど。


 「一樹。廊下に行こう。近くで話してるとあの子が休めない」


 「ん?…ああ。なるほど。わかった」


 一樹も察してくれたらしい。2人で廊下に言って話を続ける事にした。


 「…里見の隣とか…精神的に辛そうだな」


 「いや。里見さんは必要な時以外は話さないだろう?あれで周りに気を使ってるんだよ」


 「…あれで?」


 「ああ。今回も後ろの席の女子がいなかったら何も言ってこなかったと思う」


 「…ふ~ん。そう言われてみると…そんな気もするな」


 「里見さんは優しい人だよ。誤解されやすいけどね」


 「里見を優しいとか…そんな事を言う奴は初めて見たぞ…」


 「普通に話しかけたら普通に返してくれるけどな。下手な事を言うと毒舌が返ってくるが…」


 「…え?お前、里見と話せるの?」


 「…普通に話せるだろう…彼女は人間だ」


 魔王扱いしすぎだろう。たまにノートとか見えるけど…意外と可愛いんだぞ。先生が重要って言ったところはピンクのペンで囲んでウサギのマーク書いてたし…怖いから言わないけど…


 そんな感じで意外と楽しく過ごしていたある日の昼休み…


 「小林君…ちょっといい?」


 「ん?何かな?」


 「…ついてきて」


 里見さんの後に続いて校内を歩き、屋上に着いた。…え?何?


 「やっぱり…屋上か校舎裏が定番よね」


 「…定番って?」


 …カツアゲだろうか?いや、里見さんはそんな事しないだろう…しないよね?


 「小林君…私と付き合って…」


 「………え?」


 「え?って何?返事になってない」


 …付き合ってって…言葉通りの意味だよな。……また振られる気がするけど、いいか。里見さんが優しいのはなんとなく理解してるし…


 「うん。俺でいいなら…」


 「私は小林君だから告白したの。俺でいいなら…とか言わないで」


 「…うん。ありがとう。里見さん…これからよろしくね」


 「…じゃあ、今から恋人って事でいいのよね?」


 「うん」


 「…そう。よかった…」


 安心したように笑う里見さんは可愛かった。…そう言えば、里見さんが笑っているのを見たのは初めてかもしれないな。


 「あ、あの…私、思った事をすぐに言っちゃう癖があって…」


 「うん。知ってるよ」


 「だから…キツい事を言っちゃう時もあるかもしれない…先に謝っておくね」


 「別に謝らなくていいよ。里見さんは少し表現がストレートすぎたり、言葉が足りないだけだから…よく考えたら何を伝えたいのかわかるしね」


 「…なんで…小林君にはわかるの?」


 「慣らされたからね…最初はキツかったよ」


 「ご…ごめんなさい…」


 「今はもう大丈夫。言いたい事はなんとなくわかるからさ」


 「…ありがとう」


 …里見さんも…いつか違う誰かを好きになるかもしれない。…その時までは大切にしよう。もう別れてしまったけど…真利奈も翔子も俺に大切な思い出を作ってくれたから…里見さんともそんな思い出を作っていこうと思う。


 付き合い始めてからの里見さんは凄かった。誰かと付き合った事が無いのは予想してたけど…距離感が近い。グイグイくる。別に隠す気はなかったけど、付き合いだした翌日にはクラスメイト達にバレていた。


 「小林君。今日から昼は私も一緒に食べる」


 「うん。わかった」


 「……マジか」


 一樹はしばらくビクビクしてたな。何を言われたんだろう。里見さんは気にしてないみたいだから大した事は言ってないと思うけど…一樹も2週間くらい経つ頃には慣れてたけどね。


 「里見。吉幸のどこが気に入ったんだ?」


 「…ちゃんと話を聞いてくれるところ」


 「…いや、皆はお前の話を聞きたくない訳じゃなくて…聞くのが辛いだけなんだが…」


 「それは聞いてないのと同じ」


 「…そうですね」


 「一樹。里見さんは優しいぞ」


 「2人に振られてメンタルを鍛えられたお前じゃないと里見の相手はキツいわ」


 「……振られた?」


 「…ああ。2年の時に別れたんだよ」


 「……そう」


 …里見さんは知らなかったのか。俺から話すべきなんだろうか?いや、元カノの話なんかしても機嫌を損ねるだけのような気がする。…里見さんが聞いてきたら話すとしよう。


 それから2週間…里見さんの様子がおかしい。…またなのかな…今回は早かったな…でも…仕方ないよな…

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