吉幸 中編

 「真壁さん。俺と付き合って下さい!」


 高校2年の夏。真利奈と別れてから4ヶ月。カラオケの日から徐々に親しくなった真壁さんに告白した。大人しくて控え目な女の子。俺から告白しないと付き合う事はできないと思ったから…勇気を出して告白したんだ。


 「え…え~っと…私で良ければ…」


 「真壁さんが良いんだ!」


 「う…うん。宜しくね」


 恥ずかしそうにしながらも微笑んでくれる真壁さんはとても可愛かった。

 真利奈と別れてから一樹が何回か友人達を集めて遊びに行く時に誘ってくれたけど、俺と真壁さんは盛り上げ役として一緒にいる事が多かった。

 真壁さんは本当に優しい子だ。周りが楽しそうだと自分も嬉しいみたいで、皆からは親しみを込めてママとか言われてる。

 一樹に真壁さんと付き合いだしたと伝えるととても喜んでくれた。


 「真壁か。大人しい感じだけどお前となら仲良くできそうだな」

 

 「ああ。凄く優しくてな…一緒にいると安心できる」


 「ママの抱擁力は偉大だな…」


 俺と翔子と付き合いだして2ヶ月。高校2年の秋。休日に翔子とデートをしている時に…真利奈がハデな男と一緒にいるのを見かけた。


 「あれ…真利奈よね」


 「…ああ」


 翔子は俺と真利奈が付き合っていた事を知っている。同じクラスだしね。

 真利奈はハデな男の後ろを俯きながら付いていっている。…あれは恋人なのだろうか?まるで従者のように見える…


 「真利奈…」


 「…行こう」


 俺達は真利奈から目を逸らしてデートの続きをする事にした。楽しかった気もするけど…よく覚えていない。デート中はずっと真利奈の事を考えていたから…

 あんな関係が真利奈の望んだ関係だったのなら…俺には無理だ。あんなの恋人じゃない。…つまり、俺と真利奈が別れるのは必然だったって事なんだろうな…


 高校2年の冬…最近、翔子の様子がおかしい。上の空というか…悩んでいるというか…


 「翔子。何か悩み事でもあるのか?」


 「え!?ううん…なんでもないよ…」


 明らかにおかしいんだけどな…聞いても教えてくれないし…まさかとは思うけど…翔子もなのか?



 2週間後…翔子から別れ話を切り出された。…やっぱり…か。


 「…吉幸君。ごめんなさい…少し前に下級生の子から告白されたの…」


 「…うん」


 「吉幸君の事が嫌いになった訳じゃないの…でも…その子の事が気になって…」


 「…わかった。別れよう」


 自分でも驚くくらいすんなりと言えた。…自覚はなかったけど…覚悟してたって事なのかな。


 「吉幸君…本当にごめんなさい!」


 「…いいよ。気にしないで」


 翔子は何度も俺に頭を下げてからその場を立ち去った。…まあ、仕方ないよな。こうやって別れ話をされた時点で翔子の中でもう答えは決まってたんだ…俺にできる事なんて少しでも翔子の罪悪感を軽減させてやる事くらい…

 

 後日、一樹に別れた事を報告した。


 「…マジか」


 「…ああ」


 「…厄払いでもしてきたほうがいいんじゃないか?」


 「神社なら何処でもいいんだろうか…」


 「…悪い。笑えない冗談だったな」


 「俺は本気だったからな」


 残り僅かとなった2年の間は一樹と遊んで過ごした。

 真利奈は進級直前に入院してから学校にこなくなった。今年は留年の可能性はないそうだけど、進級しても続くようなら危ないかもな。

 真利奈が入院した頃にあのハデな男は問題を起こして退学になったらしい。それがショックで登校拒否をしてるんじゃないかって一樹は言ってた。

 …真利奈は自殺未遂とかか?あの時に見た真利奈の様子だとあり得るかもしれないが…

 事情を知っても俺に出来る事なんてない。俺だって別れたばかりだ。そんな男からの下手な慰めなんて嫌味にしか聞こえないだろう。一応、元カレだしな。下手に声を掛けるだけで真利奈を余計に追い詰めてしまうかもしれない…



 俺達は3年になった。毎年クラス替えがある学校なのに一樹とは今年も同じクラスになれた。…よかった。ボッチは回避できた…


 翔子と別れてから3ヶ月以上経った。…翔子は妊娠して学校を辞めていた。…翔子の性格だと堕ろすのは難しいだろうな…

 相手は翔子に告白した後輩だろうな。ソイツは普通に登校してきているらしい。

 …翔子が庇って相手の事を親に話してないのかもしれない。一樹が名前を知っていた。「芦屋 悟」というらしい。少し気になったので話してみようと思った。


 下級生に聞くとすぐに教えてくれた。芦屋は有名人らしい。好かれてはいないみたいだけどな。

 昼休みに芦屋のクラスに行くと不在だった。聞いてみると芦屋は中庭で昼を食べていると教えてくれたよ。…芦屋はかなり嫌われてるな。教えてくれた後輩は嫌悪感丸出しだったぞ…

 

 中庭で昼を食べている生徒は少ない。芦屋は一目でわかった。小柄なチャラそうな男…芦屋のクラスメイトに聞いた外見と一致しているのが1人だけだったからな。


 「芦屋君。少しいいかな?」


 「…あ?誰だよ?」


 「俺は小林だ。真壁 翔子の事で少し話が聞きたくてね」


 「…なんだよ。女を寝取られたから復讐にでも来たのか?」


 …翔子は俺と別れてから芦屋と付き合ってるから寝取られてはいないと思うが…まあ、いいか。


 「翔子が妊娠して学校を辞めたらしいんだけど…君が父親じゃないの?」


 「知らねぇよ!アイツとは別れたんだ!ガキがデキてても俺には関係ねぇ!」


 …別れても芦屋が父親である事は変わらないと思うんだが…本気なのだろうか?


 「いや、それはおかしいだろう」


 「知らねぇって言ってんだろうが!女を寝取られた雑魚が喚いてんじゃねぇよ!」


 それを言い残して芦屋は走り去ってしまった…え?まさか本気であれで責任から逃れるつもりなのか?……翔子…なんであんな奴に惹かれたんだよ…

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