真利奈 前編

 「なあ…あんな根暗な奴と別れてさ、俺と付き合えよ」


 「吉幸の事を悪く言わないで!」


 吉幸と付き合って3ヶ月。少し前から隣のクラスの男子…結城君から付き合って欲しいと言われるようになった。


 「悪い悪い。お前の事が好きだからさ…ついな」


 結城君は誰にでも好きって言うタイプだってわかってる。でも…言われた事が無い私は簡単に揺らいでしまった。


 「と、とにかく!私は吉幸の彼女だから!結城君とは付き合えないの!」


 そう言い残して結城君から離れようとしたけど…結城君は私の腕を掴んで逃がしてくれなかった。


 「どうすりゃ俺と付き合ってくれるんだ?1回抱かれてみるか?」


 「馬鹿な事言わないでよ!」


 なんとか振りほどいて全力で逃げた。…でも、結城君の言葉が耳から離れない。あんなに強引に迫られたのなんか初めてだ…吉幸は私を大切にしてくれているから絶対にあんな事はしない。…してくれない。

 その日から私の中で結城君の存在が大きくなるのと同時に吉幸に対する不満が徐々に湧いて出てくるようになってしまった…


 「吉幸ってさ…あんまり積極的じゃないよね?私と付き合うの…嫌だった?」


 「いや、真利奈と一緒にいるのは凄く楽しい。真利奈と付き合えて、俺は嬉しいよ」


 「そう…ならいいけど…」


 吉幸の気持ちは伝わってくる。私の事を本当に大切にしてくれている。でも…その先に進もうとしてくれない。もっと求めてくれなかったら不安になっちゃうよ…

 逆に結城君からのアプローチは日に日に過激になっていく。こんな人と付き合っても幸せになれないとわかっているのに…求められる事に喜んでいる自分がいる。…吉幸…ごめん。私は最低な女みたい…

 心は結城君に傾いてしまったけど、吉幸への想いが消えた訳じゃない。浮気は絶対に嫌だったから…私は結城君と付き合う前に吉幸と別れる事にした。


 「吉幸。私、他に好きな人が出来たの。だから別れて欲しい」


 「……」


 「貴方と違って凄く積極的な人。私の事を好きだって言ってくれるの…だから、私はその人と付き合う事にしたわ」


 「そう…か…」


 「私から告白しておいて身勝手だと思う…本当にごめんなさい」


 私は本当に最低だ。吉幸の表情が固まったのを見て…安心してしまったのだから…

 吉幸…ごめんね。私なんかよりもっと良い人と幸せになってね…


 

 吉幸と別れたと結城君に伝えると…


 「やっとかよ。今日からお前は俺の女だな」


 そう言ってその日のうちにホテルに連れていかれた。結城君に抱かれている時も…この人が吉幸だったらって考えてた。

 私は本当に最低だ…自分から誘う事もしなかった癖に…吉幸が積極的じゃないからなんて言い訳をして…

 吉幸の事を考えるだけで辛い…だから、この感覚に流されてしまおう…そうすればきっと辛くないから…



 結城君と付き合いだして2週間…毎日のように抱かれている。私が吉幸と過ごした恋人の時間とは全く違う…こんなの…何か間違えてるよ…


 「おい。行くぞ」


 「…わかった」


 結城君と付き合ってから…私は笑っただろうか?あんな別れ方をした私には吉幸のところに戻る事はできない。吉幸はきっと許してくれるだろうけど…私はそんな吉幸といる事に耐えられないと思う。


 「お前…本当に便利だな」


 「………」


 私達は付き合っているのだろうか?結城君は付き合いだしてから私の事を好きだと言ってくれない…求めてはくれるけど…体だけだ…

 付き合う前からこうなる気はしていた。でも…やっぱり後悔ってしちゃうものなんだね…

 あの時…吉幸と別れなければ…私はきっと今も笑えていたんだろうな…

 

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