満 中編

 「…以上が俺と中原が話した内容だ」


 「そうか…」


 白河は鈴音と直接会って話をしたらしい。浮気…鈴音に言わせれば仕事である佐伯との関係を続けていたのはやはり金の為だった。白河の調べでは鈴音は佐伯にかなり優遇されていたらしいけど…なんでだろうか。


 「なんで鈴音は佐伯に優遇されていたんだ?」


 「わかんねぇな。中原は自分が優遇されていたとは知らなかったみたいだし…」


 「佐伯は本気で鈴音の事を好きだった…とか?」


 「クズに恋愛感情なんてねぇよ。あるなら…ブレーキがかかってたはずだ。人にあそこまでできる奴に恋愛感情なんてあるはずが無い」


 「…被害者の中にはそんなに酷い目にあった人がいるのか?」


 「…ああ。話を聞いた時は俺でも殺意が湧いた。佐伯はどこかおかしい」


 「…そうか」


 「…親近感でも感じてたのかもしれないな…」


 「親近感?」


 「中原もどこか普通じゃない。佐伯ほどのクズじゃないとは思うがな…」


 鈴音がどこかおかしい…か。


 「鈴音はさ…俺を特別だと思ってくれてたんだ。友人とかは全く作ろうとしないのに…俺にだけは心を少し開いてくれてたんだ」


 「…そうだな。中原はお前といる時は楽しそうに見えた」


 「俺は友人は多いが…親しいと言える友人は白河と秋夜くらいだ。他の友人から見た俺は…いてもいなくても変わらない程度の存在だと思う」


 「…そんな事ねぇよ」


 「自覚はあるから気にしないでくれ。…でもな、鈴音はそんな俺を特別だって…そう思ってくれている事に気付いてから…俺は鈴音の事を好きになったんだ」


 「…中原はお前に対して最初からあんな感じだったのか?」


 「いや、最初は多分、俺も避けられてた。気にせずに何度も話しかけてたら鈴音のほうから話しかけてくれるようになったんだよ」


 「…避けられてるのに気にしない辺りが普通じゃないんだがな…」


 「別に敵意を向けられてた訳じゃなかったからね。多分、鈴音は人との距離感がわからなかっただけだと思う」


 「ふ~ん…ズカズカ入り込んだら惚れられちまったのかね?」


 「かもな。まあ、そんな訳で鈴音が少し人と違うのは俺もわかってたんだ。だから…俺は鈴音と佐伯が関係を持っている事に気付けなかったんだと思う」


 多分…俺は無自覚に慢心していたんだ。鈴音が他の男に興味を持つ事は無いと…

 実際にそうだったのかもしれない。鈴音は佐伯には興味がなかったんだと思う。興味があったのは報酬だけだったんだろう。


 「…で、どうするんだ?」


 「鈴音の事は今でも好きだ。でも、やり直す事はできない。佐伯との関係を全く気付けなかった俺は…仮に復縁したとしても鈴音を信じる事ができないからな。また「仕事」をしてても気付けないだろうし…」


 「…中原から伝言を頼まれている。「私と付き合ってくれて、結婚してくれてありがとう。私は幸せだった」」


 「…そうか。それは…別れの言葉だな」


 「…もうお前達は別れてるんだ。お互いに過去に拘ってないでいい加減に前を向いてもいいんじゃないか?」


 「…前を向こうと思ってはいるけどさ…やっぱり考えちゃうんだよなぁ…」


 「それが未練ってもんなんだろうけどよ…お前の未練はお前自身が断つしかないんだ。辛いかもしれないが…割り切ってくれ」


 「…わかった。俺もちゃんと自分の気持ちを整理するよ。白河がここまでしてくれたんだからな」


 「…ふん。佐伯の情報を纏めるついでだ。俺は佐伯とは面識が無いからな…いろんな奴の話を聞かなくちゃいけないんだよ」


 「…白河はなんでまだ佐伯の事を調べてるんだ?」


 「ん~…なんかひっかかるんだよなぁ。見落としがある気がしてよ…」


 「見落とし?」


 「…まあ、お前には関係ない話だ。気にすんな」


 また何かやってるんだろうな…俺は白河の仕事に関しては触れないようにしている。知らないほうがお互いの為だろう。


 「…秋夜は紗奈さんとやり直してるから…もう婚活パーティーには行けないか…」


 「誰かと結婚しようとは思ってるんだな」


 「1人は寂しいからね。誰でも良いって訳じゃないけど高望みはしてないよ」


 「…マダムとならすぐにでも結婚できるんじゃないか?」


 「まだむ?おれのしらないことばだなぁ……………やめてください…おねがいします…もうむりです…もうでませんから…やめてやめてやめてやめて」


 「何か」に植え付けられた恐怖…男を捕食する怪物…全身に纏わり付いてくるそれは…俺が意識を失うまで俺に絡み付いてきた…

 そして、俺が目を覚ますと何かの番号が書かれた紙にこう書いてあるんだ…


 また遊びましょう


 「いやだいやだいやだいやだ…」


 「ミツル!スマン…俺が悪かった!しっかりしてくれ!」




 後日…俺は白河の紹介でお見合いをする事になった。…まあ、実際はそんなに堅苦しいものじゃない。マッチングって感じかな。ネトゲのオフ会とかそんな感じだ。


 何故か待ち合わせ場所から離れた場所に白河と秋夜がいる。多分…心配してくれてるんだと思うけど…見られてるのは恥ずかしいな。相手は俺と同じくらいの女性。特に気になる事はなかったな。

 

 その日は特に何もなく終わった。悪い人じゃなさそうだったけど…1日で深い付き合いになんてなれない。なっちゃいけない。ヤリ目じゃないからね。俺はちゃんとした付き合いをしたいんだ。

 今後もこんな感じで白河がセッティングしてくれるらしい。自分で出来そうって言ったら…


 「危ない」


 とだけ言われた。白河がそう言うなら本当に危ないんだろう。セッティングにもかなり時間をかけているみたいだし…申し訳ない気分だ。


 「ミツル~。早くしろよ~」


 秋夜は先に幸せになったからこんな風に煽ってくる。秋夜に煽られると俺だって…と思うから感謝しなきゃな。ムカつくけど。

 2人に励まされながら俺は今日も相手を探す。この歳になると自然と出会う機会なんてほぼ無い。だから…頑張らなきゃな。

 …鈴音。お前も頑張れ。俺はもう前を向いている。だからお前も…俺なんかの事は忘れて生きてくれ。

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