新一 後編
冬華と別れて1年くらい経った。頑張って働いても親父達に搾取されるだけ…やってられない。肩代わりした慰謝料の返済とか知らねぇよ。
同僚も結婚しちまって手が出しにくくなっちまったしよ…まあ、呼び出せば大人しく来るから加減さえしっかりしてれば問題ないか。
「…アンタとはもう会わないから」
「はぁ?ふざけんなよ。お前の旦那に関係をバラされてもいいのか?」
「………」
同僚は俺に封筒を渡してきた。中を開けて見てみると請求書みたいのが入っていた。
「アンタの元奥さんから届いたのよ…私が見る前にあの人が見ちゃって…離婚するって言われたわ…」
「…は?」
冬華の奴…こんな事したら俺がどうなるかわかってんのか?なんて酷い女だ…
「あの人からアンタ宛てに慰謝料の請求書が届くと思う」
「し…知らねぇよ…最初はお前が俺を誘ったんだろ?俺は悪くねぇ。お前が払えよ」
「アンタが既婚者だって隠してたからじゃないの!だから別れてって何回も言ったのに…」
そういえば結婚してるって教えてから同僚から誘われる事が無くなったな。俺から誘えば黙ってやらせるから気にしてなかった。
「とにかく、俺はお前とはもう関係無いからな。慰謝料なんか払わねぇよ」
「…最低。私、もう会社辞めるから。アンタのせいで私の人生めちゃくちゃよ…」
「知るかよ。勝手に辞めろ」
同僚は引き継ぎを終えた後に会社を辞めた。辞める時に上司に俺との関係を話したようだ。なんか呼び出された。
「山本さん。貴方…社内で不倫してたんだって?」
「…してません」
「辞めた子から聞いたわ。無理矢理関係を迫られてたって…」
「…お互いに合意でした」
「はぁ…自分が何を言ってるかわかってるの?合意って言ってる時点で不倫してるのを認めてるじゃないの…」
どいつもこいつも…意味わかんねぇよ。ちょっとやっただけで浮気だの不倫だのよ…面倒くせぇ…
「だいたい貴方は…」
「もういいです。面倒なんで辞めますわ」
「…は?」
「は?じゃねぇよ。こんな面倒な会社、辞めるって言ってんだよ」
「……話し合いはできそうにないわね。わかったわ」
会社という枷から解放され、俺の邪魔をするのは両親だけ…実家を出れば完全に自由だ。何、次はもっと上手くやればいいだけだ。俺ならできる。
俺は家を飛び出して地方に移り住んだ。しばらくネカフェで過ごしてその間に派遣会社に登録。社宅なら住所変更とかしなくても住む事はできる。本来ならやらなきゃいけないが…足が付いちまうからな…
あれから5年くらい経っただろうか?俺はまだ派遣会社で働いている。派遣会社いいわ。入れ替わりが激しいから食い放題だ。最近はなかなか食えなくなってきたけど…俺も歳かな…
ある日、派遣先の会社の書類倉庫で女とやってたらバレちまった。バレるかもしれないってスリルを楽しんでただけで本当にバレる事なんて求めないっての…
よくわからないけど派遣会社から賠償金とか言われた。面倒だから逃げた。
派遣会社を辞めた俺は地元に帰ってきた。きっと今頃はアイツらも俺への怒りなんて忘れてるだろう。親父達も俺の心配をしているはずだ。一人息子だしな。帰って安心させてやろう。親孝行な息子で良かったな。
「…どの面下げて帰ってきた?」
「…いや、実家だし…」
「私達への支払いが終わるまでは許しません。ああ…これも支払いかしらね」
母親から渡されたのは派遣会社からの封筒…あ、ヤバい。嫌な予感しかしない。恐る恐る中を確認してみると高額の請求書が入っていた…
「…なんだよ…これ…」
「こっちの台詞だ。俺達はお前の保証人になんかなった覚えは無い。自分でどうにかしろ」
「支払いが終わっても家には帰ってこないでね。貴方が住み着くと冬華さんが来れなくなっちゃうから」
「はぁ?俺と冬華…どっちが大切なんだよ!」
「「冬華さん」」
「ひでぇ…お前等は人間のクズだ。愛せないなら子供なんて作るなよ!」
「お前にだけは言われたくないな…」
「クズから見たクズって普通に凡人なのかもしれないわね…」
「単純なマイナス計算とかじゃないだろうからそれは違うと思うが…」
「この子にクズだと言われても何も思わなかったから…」
なんて酷い両親なんだ。きっと俺は生まれた時点で不幸になる事が決まっていたんだな…こんな両親の子供なんて幸せになれる訳が無い…
実家を追い出された俺は行く当ても無く彷徨っていた。なんとなく足が向いたのは…冬華の実家。俺の実家に顔を出してたって事は俺にまだ気があるんだろう。
冬華は武蔵と再婚したとか聞いたけど…きっと武蔵じゃ満足できなくて別れたんだな。まあ、俺専用だからね。仕方ない。久しぶりに可愛がってやるとするか。…ちょっと年齢は気になるが、養ってもらわなきゃいけないんだから我慢しないとな。
ネカフェで一晩過ごして冬華の実家に向かう。チャイムを鳴らしたが留守みたいだ。おかしいな。今日は平日…あ、長期連休中か。道理で人が多いと思ったぜ。
仕方ない。帰ってくるまで適当に時間を潰すか。…武蔵の家でも覗いてみるかな。1人で寂しく過ごしてたらからかってやるのも面白いかもしれない。
武蔵の家…なんだ?庭の方から楽しそうな声が聞こえてくる。バレないように気を使いながら庭の見える場所に向かった。
「琢磨。お肉焼けた?」
「ああ。夏希に食べさせるなら野菜も入れる」
「おやさい…や」
「なつきちゃん。おやさいおいしいよ?」
…幸子と知らない男…ガキが2人…なんか楽しそうにバーベキューしてるんだが…
「夏希ちゃんの野菜嫌いは幸子譲りね」
「野菜ジュースなら飲めるかな?」
「パパ。私もジュース欲しい」
「ああ。今、用意するよ。少し待っててくれ」
冬華と武蔵とガキ…あの2人…別れてなかったのかよ…クソ…楽しそうにしやがって…
「京子はまだまだ甘えん坊だな」
「女の子の成長は早いらしいからね…きっと今だけよ」
「猛は夏希ちゃんのお兄ちゃんみたいね」
「可愛くて仕方ないって感じだな」
「夏希の写真…家に飾っておかなきゃな」
「お店にも飾りましょう」
…俺の両親と冬華の両親…残り2人は知らないが、あの男の両親だろうか?皆で仲良く酒を飲んでやがる。…しかもなかなか良い酒じゃねぇかよ…
10分くらい見てたけど…どいつもこいつも幸せそうな顔をしている。ダメだ。ムカついて見てられない。俺は静かにその場から離れた。
近所にあった公園でコンビニで買った酒を飲む。俺がこんなに惨めなのにアイツらが幸せそうなのはおかしい。…いや、アイツらはきっと最初からグルだったんだ。皆で俺を嵌めたんだ。まったく…世の中ってのは理不尽だぜ…
まあ、いいや。ここにはもう俺の居場所が無いのがわかっただけでも収穫だ。こんな場所はさっさと離れて新しい居場所を探さなきゃな。
前は地方だったから次は都会に行ってみよう。何、生きていくのなんか簡単だ…仕事を選ばなければな…
あの性根の腐った連中と2度と会わなくて済む…それだけでこれからは楽しい人生を送れる気がするぜ。あばよ。屑共…
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