隼人
高校1年の夏。なんとなく気になる女がいたから話しかけた。何人かセフレを作ったからやる女には不自由してなかったけど…その女には妙に惹かれたんだ…
長谷部 桜。顔は可愛くてなかなかエロい体つきをしている。だから気になったんだと思う。付き合っている男はいないみたいだから何度か口説いてみた。今までの女とは違ってやたらガードが固かったな。
ある日、いつものように長谷部を口説くと条件付きでセフレになると言われた。条件を聞いたらそれほど難しい事じゃない。俺も厄介事は御免だったから提案を受ける事にした。
学校で孝則と一緒にいる時に長谷部を見かけた。孝則は長谷部の事をジッと見ていた…なんとなく面白くなかったから…長谷部の条件の一つである「関係を口外しない事」を破ってしまった。
「あの長谷部って女とさ、セフレになったんだよ」
「…セフレ。そうか…」
少し落ち込んだ孝則を見て…俺はホッとしてしまった。せっかくセフレになれたのにすぐに別れるのは面白くない。ホッとしたのはそういう理由だと思っていたんだ…
秋。長谷部は呼べば来てくれる。割り切った付き合いだからこそ気楽に呼べる相手だった。会ってやるだけだから後腐れがなくていい。
最初はほとんど動かないから不感症のマグロなのかと思ったが…終わった後に
「足りない」
とか言って襲いかかってきた。つまり、俺は長谷部を満足させられなかったという事らしい。…他のセフレにはそんな事を言われた事がない。この女…面白いな…
冬。学校で長谷部と孝則が話しているのを見かけた。俺は違うクラスだが、アイツらは同じクラスだ。話をするくらい普通だとは思うが…長谷部の笑っている顔なんか見た事がない。よくわからないけど…面白くなかった。
その日、長谷部をメールで呼び出した。今日はなんとなくいつもと違うプレイをしたかった。
「ちょっと緊縛とかさせてくれないか?」
「嫌。普通にやらないなら帰る」
本当に帰りそうだったから諦めた。なんで緊縛プレイをしたかったのかは俺にもわからない。もしかして俺は…長谷部の事を離したくないのだろうか。
高校2年の春。また孝則が長谷部と話をしている。楽しそうな長谷部を見て…不安になった。俺よりも孝則のほうが長谷部に近い場所にいる気がしたから…
放課後に長谷部を呼び出す。長谷部の事を離したくない。その思いの正体がようやくわかった。俺は長谷部に惚れている…
行為の最中に何度も好きだと伝えた。でも長谷部は聞き流している。なんでだ…どうすれば伝わるんだよ…
何回も呼び出して思いを伝え続けたけど…俺の思いは長谷部に届く事はなかった。
孝則から長谷部と付き合いだしたと聞いたが…長谷部からはセフレを辞めるとは言われていない。まだ望みはあるかもしれない…
夏。最近は長谷部としかやってない。他のセフレとの関係は自然消滅している。
今日も長谷部とやっているが、最近は前より感じてくれているみたいだ。心はダメでも体だけは俺の物だ…孝則には渡さない。
「孝則より俺のほうが気持ちいいだろ?」
「岩本君とはまだしてないから比べられないわよ」
「…そうかよ」
なんだよそれ…。なんで定期的にセックスしなきゃダメとか言ってた長谷部がまだ孝則とやってねぇんだよ…
クソ…絶対に俺を選ばせてやる…
いつも以上に頑張った。行為の後の長谷部の表情…孝則がまだ知らない表情…今は俺だけの長谷部だ…
秋。学校で長谷部と孝則を見かけた。長谷部の表情はまた俺が知らない表情…孝則にしか向けられない表情…胸が痛かった。なんで…俺には見せてくれないんだよ…
放課後に長谷部を呼び出して抱いた。相変わらず呼べばすぐ来てくれる。…外で会う事は絶対に拒否されるけどな。ホテルの近くで待ち合わせをしてホテルに入るのがいつもの流れだ。
行為中に孝則との進捗具合を聞いてみた
「孝則とはどこまでいったんだよ?」
「アンタには関係ないでしょ」
体は反応しているが、口調は素っ気ない。イラッとしたので流れを装おって禁止されているキスをしようとしたが…躱された…
「キスはしないって言ったでしょ?」
「あ~…悪い。つい」
クソ…キスくらいいいじゃねぇか…どうせ孝則には許してるんだろう…俺にもさせてくれよ…
少し乱暴に抱いてしまったが…長谷部は気にした様子もなく行為の後にすぐに帰ってしまった。…どうすればいいんだろうな…口で言っても態度で示そうとしても伝わらない。…諦めたくないな…
冬。久しぶりに孝則と話をした。別に孝則の事は嫌いじゃない。ただ…話しかけにくくなっただけだ。長谷部と俺がセフレだって知ってるから孝則から話しかけてくる事もなくなったしな…
「隼人…話をするのは久しぶりだな」
「クラスが違うからな。仕方ないんじゃないか?」
「そうだな…また今度、どこかに遊びに行こう」
「あ~…セフレとやるので忙しいからな。しばらくは無理かもしれない」
「そうか…なら、都合の良い時に連絡してくれ」
「…ああ。そん時は遊ぼうぜ」
…何やってんだよ。俺は…孝則から見たら俺は最低な間男なのによ……クソが…どうすりゃいいんだよ…
縋るような思いで長谷部を呼び出した。ただ…グチャグチャになった自分の感情を誤魔化したかっただけだ。
「男の子特有の悩みとかってあるの?」
「…抜け毛とか?」
悩んでる真っ最中だっての…
「最近、孝則君が素っ気ない気がして…悩みでもあるのかなって」
「…さあね。俺達の関係を知っちゃったとか?」
苛立ちを隠すようにおどけて答えた。また孝則…いや、もう気付いてるさ。長谷部は本当に孝則の事しか見ていない。俺の事なんか…気にしてもいないんだ…
「…笑えないから。セフレより孝則君のほうが大事に決まってるでしょ?」
「…そうかよ」
笑うしかないだろうが。セフレに本気になって…気づきすらしてもらえないなんてよ…本当に…馬鹿だよな。
高校3年の春。長谷部から別れのメールが届いた。…覚悟はしてたつもりだけど…やっぱりキツいな。…は。泣いてやがる。馬鹿じゃねえの?彼氏持ちの女にしつこく付き纏ってよ…
…セフレから始めなきゃ…普通に付き合えたのだろうか?孝則みたいに告白してちゃんと付き合ってたら…俺にも笑ってくれたのか…長谷部…?
それからはただ無気力だった。これが失恋か。登校拒否したりする奴の気持ちがわかるぜ…学校でアイツらを見る度に泣きそうになる…
孝則とは話す事も避けた。隠れて好き放題してたから合わせる顔が無いってのもあるけど…嫉妬で自分が何を口走るかわからなかったから。長谷部との約束の1つはもう破ってるけど…これ以上破りたくないんだよ。
高校を卒業した後、大学に入ったけど…気力が湧かない。友人やセフレとも疎遠になっていた。ただ1人高校の頃にセフレだった女…河合 亜希を除いては。追い払う気力も無かったから放っておいた。
半年くらい経つが、河合はまだ俺に付き纏ってくる。なんとなく…興味が湧いた。
「なあ…なんで俺に構うんだ?」
「…一時はそういう関係だったからね。なんか…放っておけなくて…」
体を重ねたから情が湧いたとでも言うのだろうか…長谷部は全くそんな感じじゃなかった。俺は河合の言葉を信用する事ができなかった。だってさ…ただの元セフレだぜ?
更に半年。河合はまだ俺の傍にいた。セフレだった頃から誰とも付き合ってなかったけど…コイツに彼氏はいないのだろうか。
「お前さ…彼氏とかいないの?」
「いないよ。初めてが隼人だったからかな…他の人が好きになれないの…」
河合は真っ直ぐに俺を見てくる。想いが届かない虚しさは…俺が良く知っているはずだ。河合への気持ちは長谷部への想いとは違う。違うが…河合の事を信じてみようと思った。
それからは河合と正面から向き合った。セフレという関係ではなく、1人の女性として。
河合はセフレだった時には見る事ができなかった表情を俺に見せてくれた。知らない表情を見る度に…俺は河合に惹かれていった。
大学3年になった。俺は亜希と恋人として付き合っている。ちょっとした事で言い争いになったりもするが…今ならそれも大切な事だとわかる。
2人で駅付近を歩いていると孝則と長谷部を見かけた。向こうも俺に気付いていたみたいだが…何も言わずに離れていったよ。
「お幸せにな…」
相変わらず仲の良さそうな2人の幸せを心から願う。俺がいなければ…とも思ったけど、俺がいなかったら長谷部は他の男に抱かれていただけのような気もするんだよな。
「隼人?何か言った?」
「ん~…亜希は可愛いなって言っただけ」
「…今日の晩御飯は隼人の好きな物を作ってあげる」
お前さ…ちょっとチョロすぎないか?…まあ、そういうところも好きなんだけど。
今日の晩飯に期待しながら亜希と2人でアパートに向かう。なんとなく…心が軽くなった気がする。
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